犬にはマーキングという習性がある。
犬を飼う前は、縄張りをアピールしているのかな、くらいに思っていたが、実はマーキングにはお互いの情報を交換する目的もあるそうだ。年齢や健康状態などを嗅ぎとることができるらしい。まったく人間には想像もつかないコミュニケーション手段だ。信じ難いが、ユクが瞬時に自分より若い犬を見極めることができるところを見ると、本当なのだろうと納得せざるを得ない。
犬にとって嗅ぐという行為はとても大切なものなのだ。そういうことなので、警察犬のようにクン活に余念のないユクにもなるべくなら沢山クンクンさせてやりたいと考えている。考えてはいるが、止めさせなければ散歩が一向に進まないので、クンクンタイムとウォーキングタイムのメリハリを付けて散歩するようにしている。
ユクは嗅いでばかりだったのが、うちへ来て半年、1歳を過ぎて少し経った頃から、マーキングを少しだけするようになった。オス犬だが、脚が悪いからか、片脚を上げて、というスタイルではない。しゃがんでする。そのしゃがんでマーキングする様子が何とも控えめな感じがして、弱々しい。しかもやり方がよく分かっていないのか、不発も多い。散歩前に、自宅の敷地内で用を足してから散歩に出かけるのだが、そのときに全部出してしまっているのではないか、と思う。マーキング用に取っておくことはしないのだろうか。
匂いを嗅いで、他の犬の情報収集ばかりしていたユクが、余り上手ではなさそうだけど、マーキングを控えめながらもやり始めたのはうれしい。遠く宮古島から鎌倉へやって来て、ちょっと自分の存在を他の犬にアピールし始めたのかも知れないと思うと大変微笑ましい。
大好きな黒柴君が今しがたマーキングしたと思われる箇所をクンクンした後、その隣にちょいとマーキングをしたユクは、テヘヘとうれし恥ずかしな様子に見えた。乙女のようなユク坊。それは、情報交換とはまた違う行為のように思われた。