ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

見栄とはなんぞ。

マウントを取る、という言葉を聞くようになった。
ブラジリアン柔術をやっている身としては日常的な言葉であり、マウントを取れば四点が入る。日本語なら「馬乗り」の状態ことである。
マットの上では日常的でも、普通の生活においては滅多にない状況だ。一生そのような状況にはならないほうが平和でよろしい。だが、万一馬乗りになられた状況に陥ってしまった場合、少しでも逃げる方法や理屈を知っていれば役に立つかも知れないし、一命をとりとめられるかも知れない。だから、少しは知識として知っておいたほうが良いと思うし、ちょっとだけ身体を使って練習してみることもお勧めしたい。

マウント取ってみやがれ!

格闘技におけるマウントとは別に、会話の中においてもマウントを取るということが日々行われている。最近、世間で使われている用法としては、こちらのことを指していることが多い。

「私は先日、ベンツを買いましてね」
「へぇ、すごいですね。私なんかはフェラーリを衝動買いしてしまいましたよ」
これがマウントを取る、という行為である。先方のお話の明らかに上を行く内容でお話を終わらせる、もしくは主役の座を奪う行為だ。しかし上には上がいるもので、マウントの取り合いはその場限りの虚しい行為でしかない。世の中にはミニカーを集めるように高級車を集めている人だっているものだ。

虚しさのポーズ。

直接的でなくとも、なんとなく世間様に向けて、自分の凄さや見た目などをアピールしたいという欲求が人間にはある。自分がヒエラルキー的にどのようなポジションに位置しているのか、示しているのだろうか。人は独りでは生きていけないので、必要なことなのか。
自分がどのような人間であるかを他人に示す意味で、ファッションやマナーは重要だ。しかしそれを越えて、自分本来のところよりもさらによく見せようという行為をついついしてしまう。歳を取って、割とどうでも良くなってきたが、小さい背伸び行為を良くしてしまう。
見栄を張る、というやつだ。

見得を切るユク坊。

くだらないことだが、チビのくせについ大盛りを注文してしまう。松竹梅あれば、松を選んでしまう。小さな見栄張り行為である。誰も気にしていないに違いないのに、まったく小さな人間である。

チビといえば、ユクは犬の中では小さいほうだ。室内犬が増えたので、もっと小さい犬も多いが、散歩で出会う犬たちはユクより身体の大きな子が多い。

ユクの最大の趣味、クン活(匂い嗅ぎ)は散歩中に行われる。散歩の主たる目的はこれだ。その他には、おやつをもらうこと、友だちの犬と交わることなどがある。

トロールに熱心なユク坊。

匂いを嗅いで、一体何をしているのか、本当のところはわからない。その真剣な様子とグイグイ引っ張ってでも嗅ぎたい匂いがあるらしい様子を見ていると、とても強い欲求に突き動かされていることは分かる。マーキング行為もいまや具体的な意味はなさないと思われるが、とても真剣に吟味している。
マーキングされている高さも気にしているようだ。高い位置に匂いが付いているということは、大きい犬のものである可能性が高い。誰かが後でその匂いを嗅いだとき、サイズ感も情報として受け取っているのだ。

本当にそんな上の方に匂いが付いているの?

ユクもなるべく上のほうへマーキングしたいようだが、チビなので限界がある。その、なるべく上に、という様がまた滑稽で、笑ってしまう。本人は至って真剣なのだが。

ユクはユクだ。大きい犬だと思われなくて良いではないか。それはね、見栄張りというものなのだよ。

犬に言い聞かせ、我が肝にも銘じた。