引っ越した先に、実は知り合いがいる。
前の家でお隣さんだった家族である。
ユクは、そちらで一緒に暮らしていた黒柴君が大好きだった。黒柴君の飼い主さんにもよく懐いていた。ユクは好きな犬がいると、その家族も含めて大好きになる。犬は皆そうなのか、ユクだけなのか、それは分からない。
お隣さんが引っ越しされてから二年ほど経った。いや、丸三年かもしれない。随分とご無沙汰してしまった。黒柴君は元気にしているだろうか。

近くに引っ越してきた旨をメッセージした。
返ってきたメッセージには、黒柴君が虹の向こうへ旅立った、とあった。
残念すぎる。寂しすぎる。
鎌倉方面にやってきたら、いつも偶然出会わないかな、とあたりを見回していたものだ。ユクが再会でどのような感じになるのか、とても楽しみだったのに。
改めて、ユクを連れて、引っ越してきたご挨拶にうかがった。奥さんはお仕事で出かけられていて、旦那さんが出てこられた。お悔やみを申し上げるだけで泣きそうだ。

ユクはどうか。
尻尾を振って近づいていくではないか。
覚えている。
ユクは家の方を向いて、いるんでしょ?というような素振りを見せる。

まだ家の中には、黒柴くんのベッドなどが残されているとのことだった。匂いがあるのだろう。すっかり忘れてギャン吠えするかも、と少しでも疑っていたことを、ユクに謝らなければならない。

きちんと覚えていて、黒柴くんの登場を待ち望んでいた。
私の目には、一ミリほどの涙の膜が出来ていた。
瞬きできない。