ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

犬の散歩におけるマナー。

私が小学生の頃。
つまり一九七〇年代から八〇年代にかけて。
通学路にはよく犬の糞が放置してあった。風化して乾ききったものもよくあった。誤って踏んでしまうようなこともあり、その際は友達と大騒ぎをした。二一世紀となったいま、犬の糞が道に落ちていることは少ない。飼い犬が屋外で糞をすれば、飼い主がそれを持ち帰ることがマナーとなっているからだ。

なぜ君は持ち帰りたいのかね。

コロナウイルスによるパンデミックが起こり、行動制限が厳しく言われた。それが少し緩んできて、鎌倉にも観光客が戻ってきた。北鎌倉にはお寺やハイキングコースの入り口などが多数あるので、山歩きの格好をした人たちも多くなってきた。

観光客が増えるとともに、広場や道にゴミが放置されている光景をよく目にするようになった。ペットボトル、コンビニのおにぎりを包んでいたビニール、煙草の吸殻などだ。食べ物がそのまま捨てられていることもあるから、犬のクン活にも油断禁物である。犬が嗅いでいるものが食べ物でないか、いつも気を遣っている。

何か美味しい匂いがするぞ。

この辺りは山が多いので、ユクを連れて山道を歩くことも多い。
山道でユクが木に対してマーキング行動をする。それにも習慣なので水をかけて薄める努力をする。山道でユクが糞をしても、もちろんいつも通り持ち帰る。だがふと、自然に還るものをわざわざ人間の尺度に合わせるおかしな行為をしているような気分にもなる。リードを握りながら、自然とは何だろう、などと思いを巡らせる。

「自然」や「天然」は人工的な言葉だ。人間が関与しようとすればするほど、自然ではなくなる。言葉遊び。水掛け論。水掛け?

男前だから人気あるのよ。

ユクと山を下りて、近所の広場までやってきた。
すでに三頭ほど、大きい犬から小さい犬まで、揃っていた。ユクが駆け寄る。すると三頭がユクに寄ってきて、ユクのお尻をクンクン嗅いでくれた。何を確認しているのか知らないが、犬同士のご挨拶のようである。ユクが大人気となって、微笑ましい。近所の犬たちとは仲良くできるので、安心して見ていられる。

ご近所の犬とは仲良くできるユク坊。

帰宅して、ユクの足や身体を拭いてやる。家の中へ上がらせるためだ。まったく「自然」ではないが、ユクに虫などが付いていないかの確認も含め、毎日行われている。

ユクのお尻を拭いてやると、糞の残りが付着していた。
ユクの人気の秘密はこれだったか。