ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

冬を急ぐ風と、遅れてきた紅葉。

今年の長い猛暑と、突然訪れた冷え込みのせいで、秋という季節はすっ飛ばされてしまったのではないかと思っていた。だが、ここに来て北鎌倉の紅葉は見事に色づき、むしろ一気に凝縮された濃厚な秋を楽しませてくれている。

浄智寺の銀杏とユク坊。

円覚寺の門前を通ろうとすると、皆がスマートフォンを構えている。
次々とシャッター音が鳴り響き、そこを横切ると、まるで自分が撮られているかのような気分になる。もちろん、実際には私など邪魔者でしかない。撮りたい景色に、知らない中年男性が割り込んでいるのだから迷惑な話だ。しかし、最近のスマホは優秀だ。私のような通行人は、指先ひとつで容易く消されてしまう。写真って何か、考えるには良い。

夜になると静かなものです。

そのまま北鎌倉駅前の踏切まで来たところ、ちょうど遮断機が下りていた。上りも下りも点灯している。これは長引くパターンだ。ここは分岐点。少し考えた。せっかく円覚寺の年間パスを持っているのだ。こんなときこそ寺を通らせてもらおう。ユクも事情を察したのか、軽やかに石段を駆け上がっていく。

葛原岡神社にて。

もちろん「顔パス」とまではいかない。きちんと会員証を見せ、軽く会釈をして中に入る。ちょうど学生たちの下校時刻とも重なり、線路端は観光客と学生でごった返していた。だが、山門をくぐれば空気は一変する。急に人口密度が下がり、音が吸い込まれていくような静けさが広がる。
ユクには、この静寂の贅沢はわからないだろう。彼にとっては匂いのほうがよほど大切だ。

只管打嗅!

雨の予報だったので、ユクにはレインコートを着せてやった。
しかし、こうやって張り切って着せたときに限って雨は降らない。

レインコートのユク坊。

冷たい風は冬へ向けて急ぎ足で吹き抜ける。
それでも紅く色づいた葉は、ひとつひとつが小さな灯火のようにこちらを照らす。季節が急いだり遅れたりしても、結局のところ自然はそのときのペースで美しい。

紅葉を愛でているのではなく、リスを気にしているユク坊。

ユクは相変わらず、景色ではなく匂いにしか興味がないようだ。
しかし、その背中越しに眺める晩秋の円覚寺は、やはり格別だった。