二十代の頃。もちろん人間の話だ。
腰が痛くて仕方なかった。首も痛かった。中学高校では、遊びに近いクラブ活動しかしてこなかった。大学生になってからは、夜ふかし、煙草、音楽、アルバイト、と、さらに遊んでばかりだった。このように運動をろくにしなければ、若い身体でも衰えてくる。そしてあちこち痛くなる。
しかし、それは今になってみて分かることで、当時はなぜあちこち痛いのか、まるで理解できなかった。
三十代になって、知り合いに紹介されて、腕利きの整体師のところなどへも通った。ぐりぐり押されたり、骨盤にゴムバンドを巻かれたりしたが、腰痛は一向に良くはならなかった。自分はもう運動など出来ない身体になってしまったのだ、と思い込んでいた。
本当にこれは思い込みでしかなかった。いまは週に三回ほど、ブラジリアン柔術の稽古をしている。あちこち痛いが、痛みの種類が違っている。一時的な痛みで、休めば治ってくる痛みに変わったのだ。
二十代の頃にあった腰痛は、運動することによって改善された。結局、筋肉の量が足らず、痛みを引き起こしていたのではないか。
足首を痛めたとき、リハビリに通った。そのときも、痛みを取るためにチューブを用いた地味なトレーニングを沢山指導された。痛みには運動なのだ。
近所の広場に、今年十七歳になる犬を連れた男性がほぼ毎日いらっしゃる。いつもユクにおやつをくださるので、ユクはその方にお会いするのを楽しみにしている。男性が連れている老齢の犬は目が見えていない。それでも毎日遠くまで散歩に来ている。少なめに見積もっても往復三キロは歩いている。鼻もあまり機能していないとのことだった。
動かなくなってしまえば、衰えは早い。二十代の若者ですら腰痛になってしまうのだ。トレーニングをすれば、歳をとっても鍛えられる。人の理屈が犬に当てはまるかどうかは不明だが、同じ地球上に暮らす哺乳類同士だ。大して変わらないだろう。
ユクは、後ろ脚をたまに痛そうにしている。寝起きなどは、ほぐれるまでぎこちない。運動しなくなれば、そこからダメになっていくのは目に見えている。何とか十七歳の先輩犬のようにいつまでも散歩に出掛けて運動を続けて欲しい。そのために、人間もトレーニングに励む。
痛みには運動だ。ユク坊。