ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

見定める男。

私が趣味で取り組んでいる競技、ブラジリアン柔術はコンタクトスポーツである。つまり、取っ組み合いであり、何とかディスタンスとは真逆のスポーツと言える。ディスタンスばかりの世の中はつまらないと思う。ブラジリアン柔術をやるようになって、それがよく分かった。取っ組み合うと、とても仲良くなれるのだ。柔術は格闘技でもあるから、とても性格が出る。組み合った相手の性格がビシビシ伝わってくる。言葉は要らない。組み合えば、分かり合えるからだ。先ほど、とても仲良くなれる、と言った理由がそこにある。仲良くなれる人がすぐに分かる、と言い換えても良い。

取っ組み合いなら負けない!

ブラジリアン柔術は、「マット上のチェス」とも呼ばれる。
相手がこう来たらこう返して、とプランを練ることが重要だ。上級者ほど、何手も先を読んでいる。チェスや将棋と似ているところはその部分だろう。

王手サバ取り!

また、階級別の競技でもある。打撃系の格闘技ほどではないが、体重差は戦い方に大きく関係する。
電車などの公共交通機関に乗っていると、前に座っている人の体格などをついつい見定めてしまう。体重は六十五キログラムほどか?身長は私と同じくらいだな。足首が太いな、これは私の力では極め切れないかも知れない。でも首はあまり太くないから、絞め技のほうが有効か?などと頭の中でシミュレーションを行っている。イメージトレーニングと呼べるものだろうか。

電車の座席に座っているだけで、格闘技の相手を想像の上でさせられているなどとということは、人間の場合には、このように告白をしなければ気づかれない。しかし、犬の場合はそうもいかない。

血塗られた鎌倉の匂いがするぞ。

ユクがどのような方法で相手のことを見定めているのかは分からないが、おそらくは匂いが大きいだろう。パグやブルテリアのような短頭犬種を怖がるところからすると、見た目でも判断しているのかも知れない。匂いだけではなさそうだ。

吠える犬ほど弱いとはよく言ったものだ。そのとおりだと思う。ユクは相手が怖いから熱り立っているように見える。ガルルルル、ガルルルルとなっている犬を道路脇に寄せながら、すみません、すみません、と飼い主である私が頭を下げてやり過ごす。

なにかいやごと書いてる?

ユクは、「こんなリードなんてなかったら、飛びかかってやるんだからな!」と言わんばかりに興奮している様子を見せる。

相手の犬が小さく見えるほど遠くになっても、まだにらみつけて、相手の残していった匂いを脚を震わせながら嗅いでいる。やはり、怖かったのだ。まったく情けない限りだ。

私のように、そっと頭の中で取っ組み合う練習をしてくれれば良いのだが。まぁ、どっちもどっちか。