あれから随分経つが、ユクはあの痛みを忘れられないようだ。
スズメバチに刺されたのは尻尾の付け根の部分で、ピンと立ったユクの尻尾を後ろから見たところだ。まだ傷跡も残っているし、痛々しい。さらにはこの心の傷も問題だ。
尻尾に何かが触れたのか、歩いている途中で急に気にすることがある。家を出た後に歩くルートも少し変わった。慌てたように停めてある自動車の脇すれすれを歩きたがる。片側を守っているつもりなのだろうか。そして、広いところへ出たら、一度身震いをして身体を清めているような仕草をする。
お散歩中に二度か三度は、このように背後を気にしている。もちろん、何もないのに、だ。
朝の散歩は近所のお寺に行くことが日課だった。
このお寺にもハチは飛んでいる。これまでは、こちらが何もしなければ攻撃してこないだろう、と私も余裕で構えていた。だが、一度犬が刺されてしまったものだから、近くをハチが飛んでいると、リードを引いて逃げるような行動をしてしまう。先日もハチが二匹、ぶんぶんと目の前を飛んでいるものだから、まずいよユク坊!などと言いながら走ってお寺を後にした。
そのような経験をさせてしまったものだから、余計にユクもお寺に行きたくなくなってしまったようだ。今朝などは、お寺の入口で、足を止めてしまった。大丈夫だよ、なんて励ましながら少し中に入っていたのだが、遠くに飛んでいるハチが見えた。おそらくユクも気づいたようだった。ね、だからなんだよ、という感じでユクが逆方向へ引き始めた。
そうだね。
しばらくはお寺さんはやめておこうか。
トラウマを抱えているのは私も同じなのだろう。