いつもの散歩コース。
夏場は特にコースが住宅街に限定される。山に入ると蚊やブヨに刺されたり、スズメバチに襲われたりして危険だからだ。草も茂っていてマムシが出てくるやもしれない。考えただけでもおぞましい。だから夏は散歩で山には行かないようにしている。
家から二十分ほど歩いて、「台」という住所の辺りに行く。なんとか台ではなく、ただ台なのだ。そのような住所は初めて聞いた。子どもの頃からなんとか台のある所に住んできた。神戸のニュータウンだったので、山を切り開いた台地の上に住宅街ができていた。だから、菅の台や竜が台などの地名が付けられたのだと思う。単に高台だからだろうか。鈴蘭台や白川台みたいな住所地もあった。
何も付いていない「台」に不思議な感じがするのは置いておいて、夏季はその「台」へ行くことが多くなる。
その辺りで、「ユクちゃんに似た子がいる」とよく言われてきた。似た子と言っても、そんなに似ていないことが多い。トイプードルやミニチュアシュナウザー、ポメラニアンなどを飼っておられる方々には、雑種は同じ犬に見えるらしく、雑種だけど、全然似てないよね、となることが多い。
数年前から似ていると言われていた犬にようやく出会った。確かに似ていた。似ていたので思わずこちらから似てますね、と申し上げたほどだ。ユクとサイズが似ている。胴体のぶち模様も似ている。顔つきも似ているがメスだからか優しい顔に見えた。ユクとは違い、人懐っこい。撫でさせてくれた。
ユクも一応普通に挨拶はできたが、あまり興味はなさそうだ。常にマイペースな奴。むしろ向こうの子がユクに遊ぼうぜ、と仕掛けてくる。ユクはもうやめて欲しそうだ。ユク、遊んだら?と声を掛けてみるも、知らんぷり。
すみませんでした。と何だかよくわからない挨拶をして、その場を立ち去ろうとしたら、ユクがキレて阿呆になった。馬鹿走りを始めたのだ。落ち着くまで待つしかない時が過ぎる。長い。もう一度、すみません、と言ってその場を後にした。
自分が遊びたくないのに、相手の犬が遊びを仕掛けてきたりすると、大体このパターンになる。「別に遊びたくないんだし、お前がだらだらしてるから、絡まれてしまったではないか!」という感じだろうか。
悪かったな、ユク坊。
しかし、あの子は確かに似ていたぞ。
故郷は宮古島ではなく関東だった。