と、お散歩中に尋ねられた。
5月の末にブラジリアン柔術の練習中に足首を捻られて怪我をしてしまった。二ヶ月くらいは足を引きずりながら、犬には引っ張らないで、とお願いしながら、とても不自由な散歩生活を送っていた。まる三ヶ月間、柔術の練習はお預けであった。正座ができないので、茶道のお稽古もお休みさせてもらった。
仕事はパソコンと電話で事足りるので、歩くことは必要ない。近頃はオンラインミーティングというものも当たり前の事となったことも幸いして、足を怪我していることなど気付かれないまま、通常通り進行できた。
犬の散歩はお休みできないので、足を引きずって散歩をしていた。すると、他の犬の飼い主さんから、どうかしたのですか、と尋ねられる。大抵は、ええ、少し捻挫を、と答えた。私が柔術をしていることを知っている方には、練習で、とお答えした。五十を過ぎた男が、取っ組み合いをして、足を怪我するなど、自分でもどうかしているとは思う。しかし、こればっかりはやっていて楽しいのだから、どうしようもない。飢餓をある程度克服した人類は、楽しいと思うことをするために、生きているのだ。
怪我から数ヶ月が経ち、ユクとのお散歩も、普通に走ったりすることもできるようになった。風炉と炉の切替えに間に合うくらいの時期に茶道のお稽古も再開できた。ブラジリアン柔術の練習も少しずつ始めた。
十一月となった今では、すっかり怪我前の状態に戻った。怪我をするたびに、人間の治癒力に驚かされる。痛い時は、もう二度と何もできなくなるのではないか、という不安とあてどころのない憤りとで、参ってしまう。ところが、大体どのような怪我でも、良くなるのだ。手術や治療、リハビリなど、色々と他者の力も借りながら、最後は自分自身の治癒力で治ってしまう。すごいことだ。
以上のようなことがあり、尋ねられたのだ。
足の方は、その後どうですか?
ええ、少しだけまだ痛いのですが、お散歩にはまったく支障がなく、練習にも行っています。と、元気に答えた。
相手様の様子がおかしい。
目線はユクに行っている。あ、ユクの脚のことか、と、気付いた。
焦った表情はマスクで半分隠されている。こういうとき、マスクは便利だ。
私もユクも、軽やかに駆けている秋である。