ユクは食べ物を貰えそうだと、お座りをして、じっと待っている。両眼はまっすぐに食べ物のほうを向いている。片時も目線を逸らさない。よそ見をして、その機会をなくしてしまったら大変だ、必ず生き抜いてやる、という気概を感じる。
野良犬であった数ヶ月間、いろいろな人から食べ物を貰っていたのだろうか。作業服を着た男性に対して、いつも唸る様子を見ていると、その時代に何かあったのだろうな、と勘ぐってしまう。
私の記憶にある、番犬として飼われていた頃の犬たちは、味噌汁ご飯や魚の骨のようなものを食べていた。今ではドッグフードも進化して、栄養バランスが考えられた食事を犬たちは食べている。庭で繋がれている犬もほとんどおらず、家の中で人間と一緒に暮らすようになった。
食べ物や食べ方が、人間の平均寿命に及ぼす影響は計り知れない。うまく行けば七十歳くらいまで生きられるかな、という時代は終わり、うまく行けば百歳まで生きられるかな、という時代になった。資産倍増計画ならぬ、寿命倍増計画がすでに実現している。犬もそうだ。十年生きないのが普通であったのが、二十年近く生きる犬が増えた。
犬が人間のそばで暮らすことを決めた戦略は成功した。おかげで寿命倍増計画が実現したのだから。
食べ物を真面目な顔をして見つめて、傍らでじっと待っている犬を見て、うまく利用されているようなものだとも思うが、見つめられて幸せを感じてしまうのであるから、結局のところ、私たちはうまく行っている。