少しずつ、といっても、気づいたときにはそれは、いつのまにか、であり、こんなにも、でもある。横断歩道で、クルクル回って興奮して渡るようなことが減ったり、他の犬とのご挨拶もいくらか静かにできるようになっていたり、ふと、その変化に気づく。それらの変化が飼い主にとっては成長と見えるのである。
「ユクくんは落ち着いたねぇ」とも近頃は言われる。暴れたりせず、ご挨拶ができるようになったことを考えれば、確かにそうかも知れない。
ユクは、飼い主の言うことをよく聞く。スリッパを持っていってかじってしまう行為も五回ほど注意をして、今では持っていきたい衝動を抑えることができるようになった。留守番で自分しか家にいないときでも、食べ物を漁ったりはしないし、物を壊してしまうこともない。どちらの犬もこんなものなのだろうか。私はユクとしか暮らしたことがなく、一般的に犬がどの程度悪さをしないものなのか、を知らない。
きっと、留守番中にやりたい放題やってしまう犬もいるはずだ。ユクがそれをしないのは、ビビリでかつ、少しの遠慮があるからだろうか。
犬は賢いな、と思う。前述の通り、ユクとしか暮らしたことがないので、ユクは賢いな、というのが正確だ。
お利口だね、と感じるから、ついつい甘やかしてしまう。それを含めて振り返れば、実のところ犬の術中にはまっているのだろうか。本当に犬は賢い。