犬はときに「うれション」をしてしまう。
うれしすぎておしっこしてしまうことを「うれション」と呼ぶらしい。なぜションなのか。おねしょというくらいだから、「うれしょ」で良いのではないかと思うが、本題から逸れるので、それは置いておきたい。
ユクは、家の中であまり粗相をしないという話をここへ書いた。それを書いた翌日の晩、なんとリビングで粗相をした。「うちの犬は脚に骨折の痕があってですねぇ」などと散歩中に誰かに話した途端、思い切り馬鹿走りを始めたりして、大変恥ずかしい思いをする。今回もそうだ。粗相をしないと書いた途端に、ジョジョジョジョジョ。
このひと月ほど、ユクは私たち夫婦と同じ部屋で寝ている。同じ部屋どころかベッドに上がってきて一緒に寝ている。早ければ午前四時半、遅くとも五時半くらいに、ユクは起きだす。先に起きてしまって退屈なので、人間にちょっかいを出してくる。人間の足や手を少し舐めてみたりして、様子をうかがう。もうちょっと寝かせてよ、などと口では言いながらも、うれしそうにしていることを犬に見透かされて、さらなる起床せよの攻撃に遭う。おかげでこのところ私たちは寝不足気味である。
その夜、私が歯磨きをしていると、リビングのほうでドタバタと音が聞こえた。大体夜になると、ユクと妻が遊び始める。ユクは妻と遊ぶときは、犬と遊ぶときのようにプレイバウをして、真剣に楽しんでいる。いつものことだ、と微笑ましい思いで歯を磨いていたら、リビングから妻の驚くような声が聞こえた。何かまたユクが悪さでもしたのか、くらいに思った。
ユクが、遊びの途中に粗相してしまったということだった。うれションだ。うれションは、興奮しすぎて自己をコントロールできていないときに起きてしまうもの、と何かで読んだ。ユクにもそういうことが起こるのだな、と驚いた。うれションの後、ユクは戸惑いの表情でクレートに駆け込んだらしい。ユク自身も驚いたのだろう。
うれションした次の日の朝、ユクは大変大人しく寝ていた。そしてなぜか、早朝から私たちに起床せよ攻撃を食らわせたりもしなかった。そのことを妻と話し合った結果、夜に用を足させるほうが、朝穏やかになるのではないか、という見解に至った。要は、おしっこがしたいから、朝早くから起こしに来るのではないか、と考えたのだ。
その日の夜、なぜこんな時刻に、という顔をしたユクを外に連れ出し、なんとか用を足させてから床に就いた。
午前五時、ユクがベッドでドタバタやり始めた。
残念ながら、相関は見られなかった。