ユクの威嚇はとてもおもしろい。
姿勢は、いわゆるプレイバウの格好だ。前脚を前方に伸ばし、頭を低くする。お尻は上げたままだ。ヨガで言うところのダウンドッグは、犬のこのポーズから命名されていると思われるが、人間が行うダウンドッグと犬の行うダウンドッグは少し違って見える。大きく違うところは頭の位置というか顔を向ける方向だ。人間は地面の方を見るようにポーズを作るが、犬は上を向いて少し首をかしげる。これが何度見ても可愛い。
ただし、可愛いのはストレッチとして行っているときのダウンドッグであって、威嚇を表現しているときのダウンドッグとは違う。そのときの違いは犬の表情だ。口を少し開けて歯を見せる。噛んじゃうよ、とでも言いたげだ。
プレイバウしているときの、もうひとつの特徴として挙げられるのが尻尾の扱いである。ユクはゆーらゆらと絶妙に相手の心を苛立たせる速度の揺らし方をする。誰にこんなことを教わったのだろうか。
プレイバウというくらいなので、犬関連の本によると、それは「遊ぼうよ」のサインである、と説明されていることが多い。ユクのそれを見ていると、遊ぼうよとしているようには見えない。野良猫を見かけたときにもやっているので、実際遊ぼうとしている訳ではないと思われる。
整理すると、ユクのプレイバウはこうだ。
前脚を伸ばし、頭を低くし、口を半開きにして歯を見せながら、お尻を付き出して尻尾を癪に障る速度で揺らす。顔付きは真剣そのもの。
それでもそれは遊びなんだと思う。犬が本気を出したら、それは狼になってしまう。ずっと遊んでいる幼い狼、それが犬だから、私たちは犬と暮らしていられるのだ。