マナーパンツ、すなわちオムツである。
実際にユクに履かせたことはないが、犬用にマナーパンツというものが売られているのだ。たまに履かされている犬を見かける。幸いユクはどこにでもマーキングするタイプではなかったので、マナーパンツのお世話にはなっていない。
犬を飼うのは初めてだったし、犬と散歩に出かけても相当のへっぴり腰であった私も、ユクの散歩を一年間続けてきて、少しは落ち着いて出かけられるようになった。落ち着いていられるもっとも大きな理由は、ユクがどんなとき、どこで用を足すのか、ということがおおよそ分かってきたことだ。
家の中で粗相をしたことなど、うちへ来た日の翌朝とお腹を壊したか何かの朝の二度だけだ。家の中では絶対に用を足さない。散歩中のマーキング行動も少なく、電柱にひっかけたりもしない。用を足す、ということに関しては、これまでに困ってしまう場所であまりしたことがなく、そこは大変助かっている。
大きい方をするときは、なかなか場所が定まらないことが多い。ちょっと構えてみたけど、やっぱりやめて、別の場所へ移動、ということをユクは何回も繰り返す。ちょっとアーモンド大のものが出てしまうこともある。それをすかさず回収し握りしめ、さまようユクのあとをひたすらについて行く。坂道だとアーモンドが転げることもある。どんぐりころころかよ、とつぶやきながらあわてて回収に走る。
用を足すタイミングを知ることで、お出かけにも安心感がうまれる。犬連れOKのレストランやカフェで粗相をしてしまっては大変である。大変である、という表現では収まらないほどのおおごとになると想像される。今では、ユクはこういうとき、こういうところでは粗相しない、と分かっているのでお店にも連れていける。連れて行ったことのなかったころは、念のためマナーパンツを履かせなければいけないのでは、と考えたこともあったが、それは杞憂であった。
過日。
散歩中に出会った犬の飼い主さんが、ユクを可愛いと褒めてくださった。そして、お別れを言った後方からこうおっしゃった。「あら、パンツを履いてらっしゃる、ふふふ」
そう、ユクのお尻の模様は、パンツを履いてるように見えなくもない。