ユクは食い意地が張っている。
犬は皆そうだ、と言えばそうかも知れない。それにしても、食べ物のこととなるとあまりにも必死だ。もちろん、犬が人間のように、これは後で食べたほうが美味しくいただけそうだから少しとっておこう、などという考え方ができないことくらいは分かる。そんなことができるのは地球上で人間くらいだ。人間だって、そのような考え方をできるようになったのは一万年以上も前ではないだろう。人類の歴史からすれば、ごく最近のことだ。それ故、犬に対して偉そうなことが言えたものではないのだが、ユクの食い意地はひどい。
散歩に出かけている最中、おやつをくださる人たちがいる。ユクは確実にその方々を記憶していて、見つけると即座にそばまで駆け寄りオスワリをしてみせる。他に犬たちが居ても、なんとか一番に貰おうとして、一番前に並ぶ。割り込んででも並ぶ。
ユクがおやつを一つ貰う。次に隣の犬(おやつをくれている方の飼い犬であることが多い)がおやつを貰う。その瞬間が要注意である。ユクがその犬を威嚇するのだ。その瞬間が、ユクの飼い主として、もっとも恥ずかしく、申し訳ない瞬間である。前にも書いたが、まさに「俺の物は俺の物。お前の物も俺の物」というドラえもんに出てくるジャイアン気質が丸出しなのだ。
そのおやつをくれた方は、あなたの威嚇した犬の飼い主さんなんだよ、と無駄だと思っても諭す。茶の湯では「お相伴に与る」という言葉が使われる。自分がへりくだり、ご一緒にお酒やお茶を頂戴するという奥ゆかしい表現である。そのような心を犬が理解するとは思えぬが、何度も言い聞かせて、せめて威嚇することだけは止めてもらえぬものか、とおやつに伸びる手を止められぬまま思案している。私も同じか。