私はいま、足首を怪我している。
ブラジリアン柔術の練習中に足首をひねられた。あいつは壊し屋だから気をつけたほうがいいよ、と注意を受けていたのだが、気をつける間もなく、壊されてしまった。関節技は非常に危ない。だから練習で関節技をかけて相手を怪我させることは、絶対にやってはいけない。試合でも私は駄目だと思うが、試合なら怪我も仕方がないか、とも思う。
上手な関節技とは、「あと一ミリ動かせば関節が極まってしまう」という状態にセットした状態で、相手のタップ(参った)を待つものである。少なくとも私はそう考えている。一瞬で関節を壊すようなことを練習では(できれば試合でも)やってはならない。それはそもそも技ではなく、暴力である。
私はその相手とは二度と練習をしないだろう。やはりそうなってしまう。このように、いわゆる「壊し屋」と呼ばれるような種類の人間は練習相手をどんどん失っていく。
ユクの左脚には骨折の跡がある。
野良犬時代に負った傷のようだ。さぞかし痛かっただろう。ユクの歩き方は少し変だ。左脚をかばった歩き方をしている。左脚の腿のあたりの筋肉も余り発達していない。
いま、足を引きずった飼い主と足の悪い犬の散歩が行われている。私が早く歩けない状態なので、ユクにもゆっくりと歩いてもらう。急ぎがちな犬に、ゆっくり歩いてもらう訓練をしているような感じだ。
毎日のことであるので、少しずつ、犬と人間の考えていることの伝わる量が増えていっていると感じる。気のせいかもしれないが、ユクが歩みをこちらに合わせてくれている感じもする。
危険性があると知りながら自分で好き好んでやっている競技なので、全て自分が選んだ道なのだが、冒頭のように「怪我をさせられた」などと恨めしく考えてしまう。それが人間の愚かさだ。
犬はきっと「怪我をさせられた」と恨みに思うことなどないのではないか。嫌な思いをすれば、脅威に思ったり、警戒したり、ということはあるだろうが、恨めしい、などと考えることはなさそうだ。
犬のように考えることができる人間になりたいものだ。