パンデミックのはじまる一年ほど前、小田原から鎌倉に引越した。
引越してからもしばらくは小田原まで髪を切りに行っていた。床屋を変えるのは面倒なことだ。どのように切って欲しいか、などをできるだけ言いたくはないが、適当には切って欲しくない。そのようなことを理解してくれる人間関係を一から作っていかねばならぬところが面倒なのだ。
かと言って、往復の電車代とそれに乗っている一時間ほどの時間を考えれば、近くの床屋で切ってもらったほうが断然良い。本来はどの時間も貴重なものではあるが、人生の残り時間が少なくなって来ていることを実感する年齢になれば、より時間を無駄にしたくないと思うようになる。
そのようなことで、去年の秋頃から、歩いて一分のところにできた床屋へ通いはじめた。
散歩の道中、犬同士の挨拶をさせることがある。このときも、はじめましてはむつかしい。徐々に探りを入れて、挨拶をすることもあれば、近づく前からお互いに吠えたり唸ったりすることもある。最初は警戒していたけれど、何度か出会ううちに馴染み、仲良くなることもある。逆に、何度会っても、吠え合うことしかしない同士もある。直感的な判断に見えるが、犬としては、匂いやナリなどを見ての総合的な判断に基づくものかも知れない。
床屋だけではなく、ブラジリアン柔術のジムも移籍した。こちらも、パンデミックと交通費と往復にかける時間を考慮してのことだ。やはり近いことは良い。前よりも稽古に行きやすくなった。ただし、練習相手との関係作りは、また一からである。ブラジリアン柔術はコンタクトスポーツ、つまり取っ組み合いであるので、相手がどのようなタイプであるのか、ということでこちらの対応も変わってくるものだ。目一杯の力を込めて攻撃をしてくるような人とは練習したくない。疲れるし、怪我をしやすい。しかし、どのようなタイプか、最初はわからないのである。
ということで、ブラジリアン柔術の稽古においても、ここのところ、はじめましてを繰り返し、探りを入れる日々だ。私からは吠えかからないように自制している。ユクにも見習っていただきたいところである。