ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

ユクの脚を動物病院の先生に診せにゆく。歩いて。

うちには車がないので、移動手段は公共交通機関だ。ユクにはカバンに入ってもらって、一緒に電車やバスに乗り、遠方まで移動してもらうつもりだった。しかし、ユクは絶対にカバンに入らない。なので歩いて動物病院まで行くこととなった。もしかして、途中で疲れたらカバンに入ってくれるかもしれない、と考えて犬が入る用のカバンも持った。犬の飲み水やおやつやマナーポーチなど、妻と私は結構な重装備となっていた。


スマホのマップでルートを確認して、少し長い散歩の始まりだ。直後は余裕の表情で、クンクンと寄り道も楽しみながら軽やかに歩くユク。しかし、案の定その時はきた。目的地まで半分くらいのところにやってきたころ、ユクが道にへたり込んだ。バテたのだ。脚も悪いから、まだまだ長く歩くのはむつかしいのか。


お水を飲ませたり、励ますような声をかけたりして、また歩き始めた。が、しばらくしてまたへたり込む。マップを見ると、病院までまだもう少しある。さらに目の前には上り坂が。マップでは勾配が分からない。いや、本当は分かるのだけど、そんな見方をしたことがなかっただけかも知れない。仕方ないな、とユクを抱っこして坂道を歩き出す。こんなときは嫌がらず大人しく抱っこされている犬。

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大人しく抱っこされるユク坊

気候が良い5月とはいえ、10キロ近くある犬を抱っこして坂道を歩くのはなかなか大変だ。しびれた腕を入れかえて抱っこし直す。そんなことを繰り返しながら、なんとか病院まで数メートルというところまでやってきた。


動物病院の入り口に着いた。さっそく嫌な空気を感じ取ったらしい。ユクの足取りは重たい。こういうとき、犬は何を感じ取っているのだろうか。沢山の犬の匂いが入り混じっている感じなのか、それとも嫌なことをされている犬の匂いというものでもあるのだろうか。何を怖がっているのかを分かってあげられないのが歯がゆい。ユクは待合いの椅子の下にへたり込んでブルブルと震えている。ビビリ犬ぶりを発動した。こうなると仮におやつを咥えても、呆然としたままで、食べられずにぽろりと落とす。そんなに心配しなくてもいいんだよ、ユク!


いやいやするユクをなんとか診察室へ行き、以前に別の病院で撮っていただいたレントゲン写真(保護主さんがユクを連れて来てくれる前に病院に連れて行ってくださり、そのとき撮ったレントゲン写真をメールでいただいていた。便利な世の中だ)を見せながら、先生とお話をした。股関節のところが悪そうだけれど、生まれつきそこが悪いとは考えにくい、ということだった。つまり何か事故に遭ったのだろう、と。
保護される前に、崖から落ちたりでもしたのだろうか。興奮したら突然ダッシュしたりする習性が見受けられるので、何かを見つけてダッシュ、踏み外して落ちた、ということは十分考えられる。


股関節の部分を手術するかどうか。その先生曰く、「痛くて使いにくい脚でいるか、手術をして、痛くないけど使いにくい脚に慣れていくか」、というような難しい選択だった。とにかく、うちに来て間もないので飼い主と犬の信頼関係が築けていないでしょうから、また数ヶ月してから、ということになった。確かにそうだ。うちへ来て、いきなり手術なんてされて、人間不信に陥り、ビビリに拍車がかかってしまっては困る。その日はそれだけで、まだ治療方針なども定めないままであった。


さて、問題は帰り路である。


同じ距離をユクが歩いて帰れるとは到底思えない。ずっと抱っこも無理だろう。犬は普通のタクシーにも乗れない。ここは、持ってきたカバンに入ってもらって、電車に乗って帰りたい。しばらく歩いて、疲れてしまえばカバンにも入ってくれるのではないか、という淡い期待を抱きながら帰路についた。


しばらく歩いてやはりユクがへたり込んだ。チャンスだ。カバンを広げて、入れようとする。が、断固として入らない。ユクが丸くなればゆったりと過ごせそうなカバンなのに、どうしても嫌なのだ。だましだましカバンの上に座らせて、チャックを閉めようとするが、こじ開けて出てしまう。歩いては帰れないのだ、入ってくれよユク...。


あきらめて、また歩き出す。へたり込む。カバンを広げる。を何度か繰り返した。そして何度かのチャレンジのあと、なんとかチャックを閉めることができた。電車で帰れるぞ!しかし、カバンの中で不服そうだ。声をかけ、励ましながら、電車に乗った。犬と電車に乗るのは不思議な気分だったけど、楽しかった。自宅の最寄り駅まで着いて、ようやくカバンから出してもらえたユク。30分も入ってなかったのに、相当嫌だったんだろう。せいせいした、という表情だった。


初めてカバンに入ったユクと電車に乗ってから8ヶ月ほどになるけれど、あれ以来一度もカバンには入っていない。上には乗る。

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カバンの上には座るユク坊