ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

勇気を出した犬。二週間に一度のシャンプー。

犬とマリンスポーツをする。妻はそのような夢を持っていた。夢を諦めていないだろうか。だが、ユクとその夢を叶えるのはかなり難しそうだ。玄関を開けて雨がザアザア降っていると、あからさまに暗い表情になるし、少しの水溜りですら、怯んで立ち尽くすユクだ。サーフボードやボートに一緒に乗って水の上に、ということは想像し難い。水に濡れることがとても嫌なようだ。

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え?雨。

このような水嫌いの犬でも、たまにはシャンプーをしてやらねば、不衛生であるし、動物臭が感じられるようになってしまう。家の中で一緒に暮らして、さらには一緒のベッドに乗って寝ているのだから、シャンプーは必須だ。好き嫌いと言ってられない。
初めてのシャンプーでは、ずっと浴室の隅で小さくなって震えていた。二回目以降は、人間がユクのシャンプーのため浴室の準備などをし始めると、それを察知し、ケージに入って目を合わさないようになった。結局、抱っこして浴室に連れていく。抱っこを死にものぐるいで拒否するわけではない。抱っこされれば、仕方ないか、と浴室に大人しくやって来るのだ。

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シャンプー察知したユク坊。

私自身、甘やかされて育ったほうであると自覚しているが、それでも禁止されていることも多かった。お菓子をいつでも食べられたわけではないし、いつも希望した物を買ってもらえるわけではなかった。ある日、腹の横側にイボが沢山できた。ウイルス性のイボだったろうか。母親に連れられて病院へ行ったところ、お医者さんは、なんとピンセットで次々とそのイボを取ってしまった。痛いとか嫌だとか感じる間もなく、バババババババとイボを取り去った。
その帰り。駄菓子屋にぶら下がっていた、ショルダーバッグ式のお菓子パックを母親が買ってくれた。後にも先にも、そのような贅沢なお菓子を買ってもらったのはこれきりだった。さすがに痛みを堪えた息子のことを可哀想に思ったのだろうか。

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いつもそのことを思い出しながら、シャンプーをされる可哀想な犬に、普段やらないような贅沢なおやつ(高価ということではなくレアな贅沢感があるもの)を用意している。シャンプーをしているときはおやつどころではないほど怯えているので、終わったあとの話だ。大きな音をたてるドライヤーも最初は嫌がっていた。そこで考えたのが、ドライヤーのときに「犬用ちゅーる」をあげるということだった。これは大成功。ドライヤーの音にも慣れ、乾かされながら「ちゅーる」を楽しんでいる。

シャンプーが終わり、ドライヤーも終わると、ユクは洗面所を出てリビングへ戻る。
このときに、嫌なことから開放された気持ちがはちきれて「阿呆」になってしまう。ガウガウ暴れて大変なので、考え出されたのが「お土産作戦」だ。

「かみんぼ」という長いガムのようなものを「お土産」としてあげる。これも日常的にはあげないおやつだ。このおやつは食べきるのに少し時間がかかるのが良く、開放感で暴れてしまう前に、一旦おやつによって落ち着く効果が期待できるのだ。パクっと咥えて、テケテケいそいそとリビングへ走り去る。

このシャンプーの時間、水に濡れること以外、ユクにとって嫌なことはないはずだ。普段はもらえないおやつにありつけるから。だからといって、シャンプーの準備をし始めると、喜ぶわけではない。やはり、毎回小さくなってしまう。それでも回を重ねるごとに、慣れは見受けられるし、クレートに入ったまま出てこなくなることもなくなった。呼べば出てくるようになった。

先週のシャンプーでは、なんと洗面所までついてきた。怯えた顔はしていたが、抱っこされることなく自分で歩いてきたのだ。ユクなりに勇気を振り絞ったものと思われる。私たちは、心からユクを褒め称えてやった。しかし、洗面所から浴室への一歩がなかなか踏み出せないユクを見ていると、シャンプーのあとの「ちゅーる」や「かみんぼ」と、シャンプーで水に濡れることを天秤にかけ、葛藤しているようであった。

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ユクもいろいろ考えてるんだね。

犬は反応や反射だけで生きている動物なのかと思っていたが、実はもう少し利口で、想像以上に考えることができているのではないか、と思い直した。