ユクは二週間に一度、シャンプーしてもらえる。「してもらえる」というのは勝手な人間目線である。至れり尽くせりで羨ましいなぁと思うのだが、犬の方はそのようなことは感じてなさそうだ。ユクは水が苦手だから当然のことだろう。私たちが風呂場の準備をし始めると、ユクはいち早くそれを察知し、耳の形が変になる。そして逃げ場を探す。以前はケージに逃げ込み、出てこなくなったこともあった。今では、事前にケージの扉を閉め、二階へのゲートを閉め、逃げ道を塞いでから、風呂場の準備をすることにしている。ユクの逃げ場はクレートのみだ。
逃げ込んだユクを見ると、「ああもうダメだ。この世の終わりだ」という表情で小刻みに震えている。「なんにも怖いことないよね?なんにも嫌なことないよね?」と人間の価値観を振りかざしてユクを慰める。そんなことではユクを説得することはできない。ユクを説得できるのは唯一、「おやつ」である。
シャンプーのあとは、ご褒美でいっぱいだ。そのことを天秤にかけてか、最近では震えも少なくなり、クレートに逃げ込んで出てこなくなることもなくなった。なんと、呼べば一応出てくるまでになったのだ。
十二月に入り、朝晩の冷え込みを感じるようになってきた。宮古島出身犬であるユクは、寒いのは苦手らしい。起きてくるのが少し遅かったり、朝の散歩の準備をぐずったりしている。犬用のコートを着せて出かけるのが冬の散歩スタイルである。
朝、うちの近所の踏み切りで、ユクと一緒に電車が過ぎるのを待っていた。足元で良い子にしているな、とユクを眺めたら、後ろ脚が小刻みに震えていた。おお、寒いのかユク坊。
妻に言わせると、コートはお腹側が完全に出ているので寒いのだろう、ということだった。なるほど、お腹は丸出しだ。胴が長いので、お尻のほうも出てしまっている「くまのプーさんスタイル」でもある。
踏切を渡って、お寺の参道に入ったところで、ユクと思いっきり駆けた。私の息は上がった。ユクの身体は温まったろうか。