犬の行動を見て、馬鹿だな、と思うこともあれば、こやつ案外利口だな、と感じることもある。この地球で、人類に寄り添い、上手に生き残ってきたという点で、犬は実に賢い動物だと言える。人間の近くで暮らすことによって、食事にありつけたり安全性を保ったりすることができただろう。人間も犬を近くに置くことによって、外部からの侵略を素早く知ることができただろうし、犬を可愛がることで心の安らぎも得られたであろう。
猟犬や牧羊犬のように、まさに人間の仕事を手伝うために特化した犬たちもいる。役に立つ犬たち。現代の犬は愛玩動物の趣きが強い。番犬を飼おう、という目的の人は少ないだろう。猟犬や牧羊犬、盲導犬など、人間のために働いてくれる犬たちももちろん多く存在する。
ユクは特別何かの役に立つ犬ではない。
役には立たないが、居てもらえなくては困る存在である。いま、犬と暮らしている人の大半は同様の思いではなかろうか。
ユクは昭和の犬と違って、家の中で人間と一緒に暮らしている。だから、台所へ入ってはいけない、家具やコードを齧ってはいけない、など、守らなくてはならないルールも与えられている。このような取り決めをユクはよく守る。さすがに長年人間と暮らしてきた犬たちの遺伝子を継いでいるな、と感じさせられる。
それでも、ユクはわがままを態度で示す。食べ終わった器を残念そうに舐めて、妻の顔をじっと見る。ベッドに寝ていたのに、突然立ち上がり、バタッと床に倒れてみせる。ケージやクレートに入って、かわいそうな犬を演出する。
これらの行動に大体人間は動かされる。
賢いというより、ずる賢いの域である。
色々といたずらを禁止されているユクだが、ぎりぎり怒られないラインを見極めている。紙ゴミとして捨てようとしていた空き箱や緩衝に使われていた模造紙などをどこからか咥えてきて、ビリビリに破く。明らかにむしゃくしゃした様子だ。自分がむしゃくしゃしていることを表現しているのだろうか。しかも、ゴミとして捨てようとしていたものなので、人間も本気では怒らない。いやむしろ笑ってしまう。
そして、また、犬と遊ぶことになる。