ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

受難。リスの嘆き。

鎌倉にはリスが沢山いる。山に入って、歩みを止めて立ち止まり、息を潜めてみると、周りでかさかさ動く音が聴こえてくる。リスはそこそこの大きさがあるので、目視も容易だ。家の周りでもよく見かけるので、相当な数が繁殖しているものと思われる。これらはタイワンリスという外来種で、いまや特定外来生物である。生態系への影響や人の暮らしへの害などもあり、鎌倉市では、防除の計画を実行している。

害を及ぼすというタイワンリスであるが、見た目はとても可愛い。目はくりっと丸い。両手で木の実なんかを持って、カリカリ食べている様子は、まさにリスらしい動作と思える。

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リスの色は樹の肌に似ている

見た目は、と書いたのには理由がある。鳴き声が可愛くないのである。はじめて聴いたときは、リスの鳴き声だとは思わなかった。鳥か猿か、と考えるような、得体の知れない音を出すのだ。キュッコキュッコキュッコ、とか、ケタケタケタケタ、みたいな音だ。これにはすぐに慣れた、というかリスの鳴き声であると鎌倉に住み始めて学習をした。


ある冬の夕方、ユクの散歩の折。寺の敷地内に植わっている大きな木の上から、キエッキエッキエッキエッというような鳴き声が聴こえた。またタイワンリスだな、と聴き流しながら、犬の嗅いで回るのに付き合っていた。すると、そこへ近所のおじさんが通りかかったので、ご挨拶をした。「こんにちは!リスですよね?」と私。鎌倉に住んでいる者なら、これがリスの声であることはもちろん知っているので、良い天気ですね?と同等の無難な挨拶と言える。おじさんが答えた。「そうそう、リスなんだけどね。さっき猫が小さなリスを咥えて行っちゃってさぁ。親リスがそれを嘆いてるんだよ」と。たしかに嘆き声に聴こえる。私は絶句して、「え、そんな、そんな、ことも、あるんです、ね。可哀、想、に」と、木の上を見上げた。

木の上にリスが一匹。遠くを眺めるような格好をして、たしかに嘆いていた。

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