犬の「馬鹿走り」について、前に何度か書いた。
何かしらを原因とした興奮状態で、ぐるぐると走り回ったり、体当たりしたりすることで、その鬱憤を晴らしているように見える。ぐるぐる回るのはリードに繋がれているからであり、リードがなければ、辺りを大きく走り回るのだろう。普段からそういうスペースや機会を与えられていないのは、心苦しい。
実際にドッグランに連れて行くと、走り回るユクを見ることができる。しかし、すぐ飽きる。帰りたい、面白くない、ゲートの前でいまか今かと出してもらえるのを待つ。ドッグランでのユクはそんな感じなので、あまり積極的には連れて行ってない。
長らく行ってないので、たまにはまた連れて行ってやろうか、とも思う。
過日。
鎌倉方面へユクと散歩に出掛けた帰り道のこと。前方に黒い犬が見えた。ユクもすぐに気づき、頭を低くしてジッと睨みつけた。足取りはソロリソロリと猫のように足音をさせないものに変化する。獲物を狙うチーターのように、と表現してやりたいが、それでは格好良すぎる。
鎌倉方面への散歩は週に一回か二回なので、よく知るお友だち犬に会うことが少ない。犬連れの観光客の方も多く、初めてお会いする犬がほとんどだ。
あの少し大きな黒い犬も知らない犬だろうか。
いや待て、あれはフクちゃんではないか。
フクちゃんは、近所にお住まいの、ユクが小さな頃から優しく面倒を見てくれてきた大きな黒い犬だ。フクちゃんは十歳になるが、飼い主さんがいつも沢山歩かせてあげていて、とてもたくましく元気はつらつだ。
「ユク、あれはフクちゃんじゃない?」
と私は狙いを定める猫の格好をしているユクに話しかけた。ユクもおや?という感じに変わった。
「ほら、やっぱりフクちゃんだよ!」
と私が言うと、ユクが「馬鹿」になった。くるくる回りながら、ガウガウ言って、私に体当たりをしてくる。
お友だち犬であるフクちゃんを知らない犬と勘違いし、頭を低くして睨みつけていたのが恥ずかしかったに違いない。
つまりこれは、照れ隠しの八つ当たりということだな。