ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

犬のおならが聞こえますか?

朝。お寺の敷地内を散歩させていただいている。
夏でも涼しく、空気も澄んでいる。
雨の季節でも少し雨除けとなる木々が茂っていて、犬の散歩にやさしい。
そして何より、朝の時間はとても静かだ。

青い空気のなか、鶯の声がする。
ユクの匂いを嗅ぐ鼻息も聞こえる。
静かだ。

浄智寺境内。いつもありがとうございます。

と、ユクが蹲踞の姿勢、いや大きい方をする構えを取った。
私は「ポイ太くん」をポケットから取り出し、ユクを見守る。
気が散るとせっかくの排便が途切れてしまったり、そもそもやめてしまったりするナイーブな男だ。なるべくそっとして、リラックスした状態を演出してやる。
少し散歩に出遅れて、午前も九時や十時になると、観光やハイキングのお客さんが出始める。そうなると、ユクは気が散ってしまって、出るものも出なくなってしまうのだ。

雨天決行。

「プスー」とユクのお尻から音がする。かすかな音だ。人間のそれのように大きな音はしない。すべての犬がそうなのかどうかは知らないが、ユクの出す音は早朝の寺の静寂の中くらいでないと確認できない。犬の排便のたびに心が穏やかになる人生を想像していなかった。

出たよ。

家にいて、なんだか臭うことがある。
そこに犬と私しかいない場合、においの犯人は犬のはずだ。

「あれ?ユク坊、おならした?」とやさしく尋ねる。
くんくんくんと鼻を鳴らして見せる。
すると、ユクは「なにか臭いますか?」といった表情で、自分もくんくんし始める。そして、自分のお尻のほうも嗅いで見せる。
自分のお尻を確認して「いや、ぼくではないようですね」とでも言いたげな顔だ。
いや、ユクしかいないぞ、このにおいの主は。

おならした人は正直にオテしてください。

犬の、いやユクのおならは音がしない。