ギターを買った。
アコースティックギターという代物だ。
十代の頃からエレキギターを弾いてきた。アコースティックギターも何本か持ってはいたが、あまり興味がなかった。大体、弦は太いし、指は痛くなるし、エフェクターでドッカーンと音量を変えることができないので、面白いと思ったことがなかった。
半世紀を生き、ライブハウスでドッカーンとやるのがつらくなってきた。いや、またこれからもやるかもしれないが、大きすぎる音は疲れるな、と正直思うようになった。煙草もお酒もやらないので、ライブハウスはそちらの面でも私にはつらい。
演奏することは大好きだが、酔っぱらいと馬鹿な話を夜中まですることは好きではない。そのジレンマがどうしてもある。
以上が、いま、ライブハウスで演奏をしなくなった理由のようなものだが、本当のところはコロナウイルスのパンデミックの影響が大きい。
ドッカーンとやりたくないのなら、アコースティックという選択はとても良いのではないか。
いざ弾いてみると、これが難しい。長年ギターを弾いてきたし、ライブ演奏もしてきた。何だったらレコーディングをしてアルバムまで出した。私の弾いてきたギターは一体何だったのか。と、感じるほどの衝撃。弾くことの難しさに直面している。
もっと早く取り組んでおけば良かったと少し後悔もあるが、これからも習得していけることがあるのは、生きていく励みになるというものだ。
ギターを持ち帰った日から、ユクにじっくりと検査をされている。ユクにとっては、初めてのアコースティックギターだ。ギターやギターケースの匂いを入念に嗅ぎ、怪訝な表情を見せている。
ポロロンと弾いている音を怖がるかな、と思ったが、慣れてきて、丸まっている。喜んでいる感じはない。どちらかというと迷惑なのかもしれない。
迷惑だと悪いので、ユクが一階で寝ているときに、そっと二階に上がってギターの練習をした。
しばらくして、ユクが二階に上がってきた。
例によってギターとギターケースを嗅ぎまわる。そして、一連のパトロールが終わったら、ユク用のベッドで丸くなった。少し迷惑そうに見える。
「そんななら来なきゃいいのに」
とユクに話しかける。
内心はもちろんうれしい。