なかなか自分の連れている犬を正面から見ることはない。
デートでニコニコしながら歩いている自分の顔も同じだ。私は馬鹿正直な人間なので、ついつい顔に出てしまう。デートのときでもニヤニヤデレデレとした顔つきで歩いていたに違いない。今では結婚をして妻となり、家族となったので、ニヤニヤした顔を決して晒してはいないと自負している。
話を犬の顔に戻したい。
自分が犬のリードを持っているときは、犬の後ろ姿やこちらを見上げる姿しか見られない。後ろ姿もそれはそれで可愛らしい。脚を骨折したことのあるユクは、歩き方が少しおもしろい。トコトコと弾む感じが混じる。それを後ろから見ると、心が和む。
私と妻とユクとで散歩に出かけることもよくある。リードを妻が持ってくれるときは、ユクを正面から見るチャンスだ。
クン活に忙しいユクを置いて、先に歩を進める。しばらく進んだところで、妻とユクを待つ。来た来た。
トコトコにワクワクを重ね合わせたように、口を半開きにしてこちらに駆けて来るユク。そうだ。これが見たかったのだ。この見た目をまったく気にする様子のない、あっけらかんとした楽しそうな顔を見るのが最高だ。
「阿呆な顔になってるよ!」と声をかけてやる。それでもそのまま阿呆な顔で楽しそうに駆けて来る。当たり前だ。
ユクの正面からの顔こそ、ありのまま、という境地そのものである。