ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

ユクの好きな犬。言葉を雰囲気で聞く犬。

ユクはたまにモテている。
しかし、モテている相手のことを自分も好きになる確率は低い。つまり相思相愛の仲にはなかなかならないようだ。ユクは、飼い主である私たちも驚くほど、優しく挨拶ができることがある。ことがある、というよりは、そういう相手がいる、のほうが正しい。そこに法則があるようでない。決定的な要素がない。

ユクが三歳になるまでの頃は、自分より若い犬に対して、とても優しく振る舞った。目線を逸らして、私は怪しい犬ではございませんよ、としてあげてたり、お尻を向けて先に匂いを嗅がせてあげたり、そういう大人な(?)犬の振る舞いも時折できるのだ。

常に面倒くさい犬ってわけではない。

それも三歳を過ぎた辺りから変わってしまった。
自分より若い、という法則が成り立たなくなったのだ。子犬で体格も小さな犬に対しても、威嚇をしてしまったりする。そこに法則や条件を見つけられないので、うかつにユクを近づけられなくなってしまった。近づけるときも、ユクのマズルに皺が寄らないか、常に確認しながらリードを短く持って近づけるようにしている。

人間には分からないだろうね。

ユクが好きな犬も数頭いる。ユクは相手のことが好きだと直線的に好意を示すので、相手の犬には少し圧力がかかっているように見える。そんなにグイグイ行くなよ、と思うが、まさに本能の赴くままに突進していく。

ユクはコマンドとして使っている言葉を覚えていないようだ。雰囲気で何を命令されたのかを判断している風である。言葉そのものよりも、どの場面でどのような感じでその言葉が発せられたのか、を手がかりにしているのだろう。

おやつもらえそうな雰囲気なので撮らせてやるよ。

それでも、「ユク」という言葉にはよく反応する。一番多く聞く響きだからだろう。「ユク」と言うとこちらを向く。「コラ!」とか「ダメ!」も何となく雰囲気で理解しているだろう。

好きな犬の名前を発すると、ユクの挙動が明らかにかわる。「ももちゃん」という犬のことがユクは大好きなのだが、これには確実に反応する。お散歩中に遠くにももちゃんを見つけて、私が「あれ、ももちゃんじゃない?」とユクに言うと、「え?どこ?どこ?」とキョロキョロし始める。
そのくらいにうれしがるものだから、家の中でも「ももちゃん」という言葉は使えない。妻と「今日、ももちゃんと会ってね、」などと会話を始めただけでキョロキョロし始めるからだ。ここにいるわけないじゃん、という理屈はまったく通用しない。

愛しのももちゃんに会えてうれしいユク坊。

ところで、私は関西人だ。
外で他人とお話するときは、標準語を使っている(つもりだ)。家の中では関西弁で話している。ユクに対してもそうだ。お散歩中、ユクがクン活をしていて、同じ場所に執拗にこだわって離れなかった。そこで私は関西の言い回しで、「ユク坊、もうええんちゃう?」とユクに向かって言った。それを聞いたユクは「え?どこ?どこ?」とキョロキョロし始めた。

「ユク坊、ももちゃんじゃない?」に聞こえたに違いない。

え?ももちゃん?