ドラゴンクエストというゲームには自動セーブ機能が備わっていなかった。したがって、子供たちは、「ふっかつのじゅもん」という文字列をテレビの画面から書き写し保管、次にゲームを始める際にそれを入力していた。その仕組みのおかげで続きからゲームをプレイできた。
ふっかつのじゅもんを入力したとき、「じゅもんがちがいます」と出ることがあった。そうすると、前のふっかつのじゅもんを入力して、やり直す必要があった。前のじゅもんを保管していなければ、最初からプレイしなければならない。大変な悲劇だ。
このような悲劇を避けるため、子供たちは、ふっかつのじゅもんを複数書き写しておいた。つまり、パスコードの二重化を行っていたのだ。
子供の頃にゲームで学んだ二重化での備えは、社会に出てからもとても役に立った。
暴れ犬とは失礼ではあるが、ユクは時折暴れる。どの犬もそうなのかどうかは知らないが、ユクはとにかく好きな犬や人を見つけると、車が走っていようが人が歩いていようが、駆けていこうとする。これは本当にやめてもらいたい行為だが、こちらも予測できるようになっているので、リードを短く持ったり、引きつけたりすることで、未然に防ぐことができている。
「馬鹿走り」と呼んでいる、走り回ってしまう行動にも慣れた。大騒ぎせず、しばらく様子を見ると、収まってくる。リードで繋がっているので、飼い主さんとじゃれていてかわいいね、くらいに思われているかも知れない。が、実際にはガルルルルと猛獣の様を呈している。気分は猛獣使いである。
このような暴れ犬の状態になったときにも首輪が抜けてしまわないように、うちへ迎えた当初から、首輪だけではなく、ハーネスも着用させて、ダブル(二重)リード
で散歩に出ている。幸いこれまでに、首輪が抜けたこともリードが外れてしまったこともない。また、リードは持ち手のあるタイプではなくて、人間の身体に掛けられるタイプのものを使用している。突然走り出して、リードごとどこかへ行ってしまうということもこれで防ぐことができている。
このリードは大変優秀なものだ。この暴れ犬と繋がっておくにはこれしかない、と思っている。しかし、ひとつだけ気になるところがあった。リードはいくつかのパーツ
に分かれていて、それぞれをナスカンなどで接続している。ユクへ繋がる部分は二箇所あるが、リードの一箇所は一つのナスカンだけなのである。
もしも、激しく犬が暴れてリードもどこを持っているかわからない状態になって、うっかりこのナスカンを開いてしまったら、と想像すると怖い。実際、何度もその部分を散歩の開始時、途中、と確認をしてきた。
ある日。その心配していたことが解消されていた。
ナスカンだけで繋がっていたところに、新たなパーツが加わったのだ。それはパラコードと呼ばれる大変丈夫な紐で編まれたもので、市販のものではなく、妻が自作したものだった。私が「この部分が不安である」と嘆いていたのを覚えておいてくれたのだ。
これが大変良い。
やはり、二重化ということはセキュリティにおいて重要なことなのだ。
ところで。「二重化」という言葉の使い方はあっているのでしょうか。