ユクはあまり水を飲まない。
人間界では、水は一日二リットル飲むとよろしいなどということが言われているものだから、積極的に水を飲む人達も多いと思われる。私もあまり飲まない質であるので、意識して飲むように心掛けている。喉が渇いたと感じたときにはもう遅いのだ、と脅かされるから、頑張っている。
犬はどうなのだろう。ユクは、喉が渇いたときにはたっぷりとまとめて飲んでいる。飲みなさい、と諭してもプイとあちらを向いて、飲む気配はない。理屈は通じないので、人間に通用するような脅しは何も有効ではない。
そこで考えだされたのが、ミルク作戦である。ヤギのミルクならよく飲む。
粉状のものをお湯に溶かし、氷や水を入れて冷ましてやる。
いつも目を輝かせて、ミルクが配膳されるのを待つユク坊。飲み終わったら、器も顔が映るほどに輝いている。ところが、たまにミルクをたっぷりと残すときがある。残すというより、ひと口飲んで立ち去っていく。「口に合わねぇ」という感じである。ひと口もせず、帰っていくときもある。匂いで分かるのだろう。そういうときの原因は濃さなのは明白だ。薄めすぎたかな、というときに限って、残す。犬はそんなに味へのこだわりがないものだと決めつけていたが、そうでもないらしい。
元野良の犬が、案外舌の肥えた「ええとこのぼん」になってしまったのかもしれない。ぼんに「あほ」を付けて、「あほぼん」と言ってやろう。