陽気でへらへらしています、という話ではない。いや、存外そういうことなのかもしれない。
犬は体表に汗をかいて体温調節をしない動物だ。つまり人間のように汗まみれになったりはしない。まったく汗をかかないわけではなく、足の裏からかく。足の裏にのみ、汗腺が存在するのだ。犬の肉球を嗅ぐと、香ばしい匂いがするのはそのためだろう。
しかし、犬は足の裏からの汗で体温を調節しているのではない。では、暑いときにどうしているかというと、口を開け、舌を出し、舌から唾液を垂らすことによって、気化熱を利用して体温を下げているそうだ。試しに真似をしてみる。はぁはぁはぁ。舌の上がいくらか涼しい感じはするが、この程度のことで体温を下げられるとは思えない。本当にこのようなことでなんとかなっているのか。もう少し検証をしてみたいが、誰にも見られないうちに止めておいたほうがよさそうだ。
ユクは口を閉じて真面目な顔をしていても口角が上がり、笑っているように見えることが多い。人間だと、真剣な話をしているときであるのにへらへらしてけしからん、などと叱られてしまう危険があるが、犬は笑顔に見えたほうが都合のよいことが多いだろう。可愛がられて、おやつをもらえたりするからだ。
夏になると、ユクの口も開く。
笑顔がスマイルではなく、ラーフな感じに変容する。そう見えるだけで、決して爆笑しているわけではないとは思うが、やはり笑っているように見える。
夏の散歩では、すれ違いざまに「可愛い」と声をかけられることが増える。おそらく、暑さによって口が開き、笑っているように見えるからだと推察している。
笑いかけているように見えても、ユクは見知らぬ人への警戒心が高い犬だ。
道行く人が、可愛いね、と手を差し伸べてくださっているのに、ガゥルッルルと跳ねながら唸るので、私は夏の散歩中、へらへらしながら頭を下げている。決して陽気でへらへらしているわけではないのだが、何が原因か、と手繰って考えてみれば陽気のせいである。なんだかおかしな話だが、陽気でへらへらしています。