私は新しいものが好きだ。それは新品、という意味ではなく、これまでになかった新しい物や技術を指す。docomoのiモードというサービスが始まったときも、新しい時代が来たと息巻いて、iモード初号機(F501i HYPER)を購入した。そのとき、携帯電話がインターネットに繋がったのだ。携帯電話用のメールアドレスもすぐに所有した。しかし、問題が起きた。メールを送る相手がいないのだ。厳密に言えばいないことはなかったが、その時代、メールはパソコンで送受信をするものだった。さらに個人のアドレスともなると、仕事が終わって帰宅してご飯を食べてひと風呂浴びてパソコンを立ち上げてモデムを使ってピーガラガラとインターネットに接続して、ようやくメールを受信する、という時代であったのだ。携帯電話からメールを送っても、返事があるのは早くても翌日だ。メール送ったから読んでね、と電話をしなければならない笑い話のようなことを真剣にやらねばならなかった。その当時は、大人も子供も皆がケータイを持ち、リアルタイムに通信をするような世の中がこんなに早く来るとは思っていなかった。
このように、真っ先に新しいものに飛びつくことには失敗や不便を感じることも多い。しかし、そこも含めて楽しいものだ。iPhoneが日本に上陸したときも一番に手に入れた。大きな黒い板を電車の中で出して使うのが人目を引き、恥ずかしい思いをしたが、今では車内で多くの人がスマホの画面を眺めている。時代はものすごい速度で進んでゆく。
デジタルガジェットに関しては常に喜んで人柱になる私だが、Apple Watchを購入するのは随分遅かった。妻に「あんなに格好悪い物を腕に巻いている人とは一緒に歩かない」と、反対されていたからだ。しかし、長年に渡る私のプレゼンテーションのおかげか、妻の哀れみか、2019年にシリーズ5が出たときに購入が許された。しかも画面の常時点灯という改良もなされていた。これは大きい。常時点灯していないと、大袈裟に腕を振り上げなければ画面がオンにならず、時刻を確認するごとにApple Watchを自慢しているような腕の動きをしなくてはならないからだ。
ただし、時刻が分かる機能はApple Watchにとってはおまけみたいなものだ。iPhoneにかかってきた電話、届いたメールやメッセージの通知が腕に来る。もちろん内容を読むこともできるし、音声認識で簡単な返事も可能だ。電子マネーをApple Watchに登録しておけば、Apple Watchだけでコンビニなどで支払いはできるし、電車やバスにも乗れる。そして、最近Apple社が力を入れているのがウェルネス機能だ。つまりは健康に関わるものだ。
Apple Watchは、毎日の歩数はもちろん、移動距離や運動時の心拍数なども計測し記録してくれる。ウォーキングやランニングをすると、GPSを用いて地図上でどこを通ったか、そのときの心拍数はどうであったか、というようなことまで記録してくれる。
そして、一日の目標数値を設定しておくと、現在の自分が何パーセントほど達成しているか、がリング状の表示で一目瞭然なのだ。100%に到達すると、リングが完成する。これを「リングを閉じる」と呼ぶ。
犬と散歩に出かけるとき、ウォーキングモードをスタートさせる。すると、何キロくらい歩き、どのくらいの時間が経過したか、ということが、散歩をしながらも確認ができて便利だ。ルートも記録されているので、昨日どこに散歩行ったっけ、となっても大丈夫だ。また、どのお散歩ルートだとどのくらいの距離を歩けるか、などの情報も蓄積できる。
ユクがうちへやって来たのは、コロナに関連した第一回目の緊急事態宣言下だった。街から人が消えていたあのときだ。外に出るのもはばかられ、運動不足になった方も多いだろう。私は逆だった。それまでは家で座ってばかりいて、パソコンに向かい、ひたすらクリックしていたのが、リードを握り、毎日犬と散歩に出かけるようになった。
Apple Watchを身につけだした頃は、まったくリングが閉じなかった。外に出ないし、歩かないからだ。独りで走るのも好きではない。Apple Watchのウェルネス機能なんて無意味では、とすら思っていた。ところがユクが来たおかげで、毎日リングが閉じるようになった。
リングが閉じられていくと、記録を伸ばしたくなって、今日も明日もリングを閉じよう、という気持ちになる。散歩していても、もう少し遠くまで行ってみようか、というような日も増えてくる。Appleの思うつぼだ。しかし、犬のいる生活とApple Watchとの相性はとても良い。そのことはしっかりとプレゼンテーションしておきたい。