ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

吉野家の牛丼。

牛丼は吉野家のものが好きだ。
棋士村山聖も言っていたが、牛丼は吉野家でないといけない。松屋すき家なか卯もそれぞれ美味しいとは思うが、それは、吉野家あってこそ、なのだ。湖池屋のポテトチップスが美味いのも、カルビーのポテトチップスがあるからだ。
そして、吉野家の牛丼においては、並盛が一番だ。大盛や特盛では、ご飯と牛肉のバランスが悪い。並盛こそが、考え抜かれたバランスを持っている。

自分で働いてお金を稼ぐようになるまでは、牛丼というものを自由に食べさせてもらえなかった。アニメのキャラクターが食べているところを観て、自分もあれを食べたいものだ、とてつもなく旨いものに違いない、といつも考えていた。

今よりももっと女性には入りにくい店構えやイメージだったからか、母親に連れて行ってもらった記憶はない。父親には連れて行ってもらったことがある。めったに無い、吉野家の牛丼を食べられる機会を得て、大変うれしかった。その日、何のイベントがあったのかは忘れてしまったが、私は白く短いズボンに青いポロシャツを着せられていた。かなりよそ行きの格好であった。

よそ行きの顔。

素早く作られた牛丼が目の前に置かれようとするその刹那、お兄さんの手から丼が滑り落ち、私の目の前に牛丼がぶちまけられた。カウンターテーブルを伝って、牛丼の煮汁が私に向かって流れてきた。白いズボンは薄茶色に染まった。あれほど、うれしさと気まずさが一度に押し寄せた経験は五十年間の人生を振り返っても、あのとき以外にない。

父はそういうとき、店員に強く怒鳴ったりはしなかった。今の私にそのような対処ができるだろうか。あの冷静さは大いに見習いたいものだ。その後、母親にはさんざん文句を言われたことだろう。

牛丼は好きだが、たまに食べるから良いのであって、週に一回くらい食べるには飽きが来る。そして、美味しさの感動もなくなってしまう。

美味いね、これ。

ユクはほとんど毎日同じメニューを食べている。基本はドライフードで、一日に食べるほとんどがそれだ。散歩途中のトリーツも実は基本のドライフードで、ユクは選り好みをしないから助かっている。それでも毎回目を輝かせて、クルクル回ったり、宙を跳んで喜びを表現してくれている。

そんなユクにも好みのランキングというものがあるかも知れない、と感じる。牛のヒヅメを貰えるときの喜び方が大げさなのだ。現在のところ、ユクの大好きおやつナンバーワンは、牛のヒヅメ(牛蹄)ということになろう。

よそ行きです。(もうよろしい……)

でもさ、ユク坊。
きっと、たまにだから美味しいんだよ。