ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

夕焼け小焼けのチャイムが鳴るまえに。

四十を過ぎ、神奈川県に引っ越してきて、初めて「夕焼け小焼けチャイム」を聴いた。
冬は一六時半、夏は一七時に鳴る。
私は関西人である。明石、須磨、神戸で育った。
だから、「夕焼け小焼けチャイム」がなかった。 

と、ここまで書いて、調べてみた。
正式名称は「防災無線」だそうだ。「防災無線で鳴らす五時のチャイム」というところだろうか。
関西でも、あるところにはあるみたいだ。自治体による、とのこと。
たまたま、私の育ったエリアではなかっただけなのか。

夕暮れ近くても絶対に海の方へ行きたいと駄々こね中のユク坊。

この五時のチャイムは犬たちにも馴染み深いものになっていると思われる。
近所の飼い主さんも、チャイムがなるのを聴いて、犬のご飯の時間だ、とおっしゃっていた。夕方、区切りをつけるための合図として、根付いている。もちろん、私もこのチャイムを頼りにしている。どの季節も、夕方の散歩中にこのチャイムを聴くことがほとんどだ。まだ散歩に出かけられていないのに、家でこれを聴いてしまうと、ああ、散歩に出遅れている、という状態なのだ。

あれ?チャイム鳴ったよな?

ユクもそれは分かっていて、散歩に出かけていないのにこれが鳴ると、戸惑ったような表情をして、外を眺めている。

お散歩中にこれを聴くことがほとんど、と書いたが、そうすると、ユクも外で聴くことになる。
犬には防災無線のことは分からないだろうから、日が昇る、雨が降る、風が吹く、くらい自然なことなのかもしれない。この世界では、毎日この音が鳴る。そう認識しているのかも。

ここで聴くのが格別なのよ。(結局海に来た)

過日。私はNetflixでドラマを観ていた。夜のことだ。
ユクは横で丸くなって寝ていた。
するとドラマの中で、例の「夕焼け小焼けチャイム」が流れてきた。
ユクはそれを聴いて、飛び起きた。ハッとして、テレビの画面、つまり音の鳴る方を凝視している。表情からして「なぜこんな時刻に?」と見て取れる。

ある程度、夕方とチャイムが結びついているのか。それとも外で鳴るものなのに、どうしてここで鳴っているのか、という点に引っかかっているのか。

人間が作り出したチャイムではあるが、犬たちにとっては、「自然」なのかもしれない。