「風を吹かせる」という言葉がある。あまり良い意味の文脈では使われないものだ。風を吹かせている奴は、大抵「中身がともなっていないのに偉そうにする」奴だろう。吹かせる風にも色々ある。先輩風や兄貴風、役人風などが思い当たる。うちには地元風を吹かせているはた迷惑な犬がいる。
近所の広場で観光客の方が連れている犬などを見かけると、ユクは唸ったり、ときには飛びかからんばかりに苛立ちを見せる。ここは自分の縄張りである、と主張でもしているかのようだ。うちの家から五〇〇メートル圏内なら、まだ分かる。だが、同じようなことを数キロ離れた由比ヶ浜でもやるのだから理解に苦しむ。広大なビーチを自分の縄張りだとでも思っているのだろうか。
本当の縄張りのボス犬に、ガツンと叱っていただきたいものだ。
飛びかからんばかりに、と書いたが、飼い主とリードで繋がっているので、飛びかかることは不可能である。だが、その不可能であるのを良いことに、飛びかかる素振りを見せているのではないかとも考えられる。人間の喧嘩でもそのようなことがあろう。周りが止めに入ってくれるから勢いよく行ける、というものだ。どうもそんな匂いもする。
唸っているときに大きな声で制止を試みると、犬は応援されているように感じて、唸ったり吠えたりすることを止めないそうだ。では、どうすれば良いのだろう。
現在のところの戦略は、「ぜんぜん私はおもしろくありません」とつぶやきながら、リードを引いて、さっさとその場を離れる、というものだ。
これで合ってますでしょうか。