ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

牛蹄(ぎゅうてい)が好き過ぎて、知恵を働かせた犬。

夜、私はシャワーを浴びていた。と、そこへ扉の外から妻の声がした。返事をしたのと同時に扉が開かれた。なかなかの緊急事態ではないか。私とは違い、虫が現れたくらいで妻がこのように騒ぐ筈はない。揺れは感じていないので、地震でもない。浴室は明るいので停電でもないだろう。いったい何なのか。
ユクがね。と、笑いながら言っている。犬か。犬が何かしでかしたのか。噛み付きでもしたか。

ユクは私がリビングから居なくなると、残った妻へちょっかいを出し始める。おやつを要求したり、遊びに誘ったりするらしい。

ん?事件の匂い。(お、重たいです……)

その日も私が風呂場へ行くと、ユクは牛蹄を欲しそうにしていたとのこと。扉の向こうに牛蹄が仕舞ってある。その扉にかぶり付きで座り込んでいるユクに、こっちにおいで、と妻が声をかけたそうだ。するとすぐさま駆け寄ってきて、横に置いてあったバスタオルを咥えて引きずり下ろし、犬のベッドの上に敷いたそうだ。

バスタオルの上で牛蹄にかじりつくユク坊。

実のところこれは、牛蹄を犬に与える前に、いつも人間が行っていることなのだ。ベッドがユクのよだれで汚れてしまうことを防ぐために、バスタオルを敷いてから、その上で牛蹄を渡しているのである。ユクはそのことを学習して、まるで「さぁ、バスタオルを敷いてやったのだから、次は牛蹄だろ?」と言っているかのように振る舞ったというわけだ。

そりゃけっさく!

それを聞いて私も大笑いした。
あまりに面白いので、牛蹄を進呈してやったそうだ。致し方ない。きっと私もそうするだろう。面白いから牛蹄をやった、と言っているが、犬からしてみれば、やはりバスタオル作戦は成功であった、ふふふふふ、としか思っていないだろう。

幾重もの勘違いが人生の機微をつくりあげているように、人と犬においても少しのすれ違いが互いの生活を豊かにしてくれているようだ。

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