オンライン会議が主流となり、人と実際に会って仕事をする機会がめっきり減った。オンライン会議で話すこともなく、メールでのみ繫がり、仕事が進行しているケースもある。この件は部下の者が引き継ぎますので、というケースなどだ。昨日、メールの署名部分を見て、ハッとした。その人の名前は「あさひ」と読むようだった。ずっと、男性だと思ってメールのやり取りをしてきたが、もしかして女性の可能性もあるという気がしてきた。少しむずがゆい気はしたが、人間だと思っていたら犬でした、というほどの驚きではない。
アメリカの社会では、すでに敬称が破綻しているそうだ。ジェンダーへの配慮が進んでいるがゆえに、簡単にMr.やMs.と付けられないのだ。そもそも結婚していたらMrs.でしていなかったらMiss.というものも存在していて複雑だ。肉体的には男性だが心は女性という場合、自分のことを表現するときは、「she/her」を用いて欲しい、と表明する新しい習慣もあると聞く。考えてみれば、老若男女問わず、「さん」と「様」で呼ぶことのできる日本語はまさにジェンダーレスで便利である。「ビッグフラーイ!オオタニサン!」とMLB中継のアナウンサーがおっしゃっているくらいだから、アメリカ人も「さん」の存在は知っているようだ。アメリカでも皆「さん」を採用すれば良いだろう。ジェンダー問題や階級別呼び分け問題なども一気に解消される。
ユクはオスだが、去勢されてうちへやって来た。
日本語における便利な敬称に「ちゃん」というものもある。ユクは、ユクちゃんと呼ばれることが多い。ちゃん付けで呼んでおけば、オスだろうがメスだろうがOKなのが日本語の良いところである。ときに明確にされたいのか、「ユク、くん、で、しょう、か?」と言いながらユクのお腹のほうを覗き込む方がいらっしゃる。「あ、くん、ですね!」と何とか目視確認できたようで、こちらも安心(?)する。
ユクもそうだが、犬の名前には中性的なものが多い。「太郎」や「花子」なら、明確ではあるが、最近ではそのような名は少ないようだ。
近所でよく会う、いつもご機嫌で人間の私たちともよく遊んでくれる、フラットコーテッドレトリバーがいる。先日、妻に、あの子はオスだよ、と言われてびっくりした。ずっとメスだと思って付き合ってきたのだ。犬は外見もジェンダーレスだ。
鼻の利く犬たちは、匂いで異性との付き合いを決定しているのかも知れない。きっとそうだ、目鼻立ちなんて気にしていない。人間が何万年もかけて、外見を男女で変化させてきたのは、視覚の発達によるところが大きいのだろう。
人類の、視覚的言語的ジェンダーレスが進んでゆけば、人間の嗅覚もまた鋭くなって、犬との(嗅覚による)共感度が高くなるかも知れない。