犬は遊びや勝負を理解しているのか。
よーいドンでかけっこをして、どちらが先に着いた、つまり勝ったというような概念を理解しているのだろうか。
二階から一緒に降りるとき、階段の途中でユクは私を待つ、少し追い抜かせてから、スタスタスタと足の脇を駆け、追い抜く。一階に先に着いたユクは、毎回何か誇らしげにこちらを見る。この行動から、「競争」を理解し、先に着いたという「勝負」も理解しているのではないかと推察している。
ユクはお肉のぬいぐるみを咥えて持ってくる遊びも行う。特に教えたわけでもない。狩猟犬の血が自然と行動につながっているのではないか。こちらが投げると、速やかに駆け寄ってぬいぐるみを咥えて、こちらに持ってくる。こちらもそれを見て喜んだり、褒めたりするので、ユクもこれは人間が喜び、自分におやつが与えられる行為だと学習する。
この「持って来い遊び」をユクが最近アレンジした。
咥えたぬいぐるみを、口で器用に空中へ投げるのだ。投げて転がったぬいぐるみを、やたらと警戒心が旺盛な構えで睨み、しばらく対峙する。居合の達人の風体だ。少しでも動こうものなら仕留められそうだ。だがしかし、というか、もちろんのこと、ぬいぐるみはピクリともしない。
やがて、ユクは肉のぬいぐるみに飛びかかる。このぬいぐるみは噛むとキュッキュと音が鳴る。何度も噛み付け、音を鳴らしている。獲物が悲鳴をあげているようで、痛々しくもある。そして、また空中に投げる。ユクが構える。今度はぬいぐるみの方を向いていない。少し斜に構えて、自分の周りを見渡している。五人(頭?)くらいに囲まれているように見える。あらゆる方向への警戒をしている。一人芝居としてはなかなか高度だと思う。
これらの演技中、私たち人間は喝采を浴びせる。ユクは当然のことながら、得意気だ。拍手喝采した手前、ユクにおやつをやってしまう。結局、おやつのために演技するのか、楽しいから遊びを考えているのか、わからなくなってしまう。
留守中にいたずらしないことを考えれば、この一連の演技はやはり、おやつのため、という理解が正解かもしれない。
追い抜かせ遊びではおやつは出ないので、あれは単純に勝負事を楽しんでいるといえるだろう。