大好きな犬や、おやつをたっぷりくれる人に出会ったときのユクは、まったくクールではない。落ち着きがなくそわそわしている。好きな子に対して、もっと堂々と構えていたほうが向こうの方から寄ってきてくれるのでは、と思う。それなのに正面から鼻先をペロッとしようとして、ウゲッっと嫌がられてしまう。言わんこっちゃない。
おやつをくれる人に対してもそうだ。気持ちが焦ってしまって、オテはパンチのようだし、オカワリはバンザイになってしまう。それを見て皆が笑ってしまうし、それでおやつをもらえるものだから、修正される気配もない。お家での練習ではしっかり座ったままオテもオカワリもオマワリもできるのに、いざ本番(散歩中に他の飼い主さんの前で披露する段)になるとワンツーパンチを繰り出したり、立ち上がってしまったり、とまったくクールではない。
そんなユクでもクールに見えるときがある。
散歩中に出会った犬と、鼻を突き合わせて挨拶したり、ワンプロをして暴れまわったりしたあと、急に相手との距離を取り、勝手に地面を嗅いだり、明後日の方向を見て澄ました顔をしていることがある。さっきまで飛び跳ねていたのに、「ぼくはもうそういう幼稚な遊びは卒業したのですよ」みたいな顔をしているのだ。
犬は相手に落ち着いて欲しいときや関わってもらいたくないときなどに、目線を逸して意思表示する、ということを犬のコミュニケーションについて書かれた本で読んだことがある。ユクはそれを実践しているのだろうか。それにしても、急に冷めるので、良く言えばマイペース、悪く言えばワガママにしか見えない。ユクの変わり身の速さにこちらは、吉本新喜劇のようにずっこけるしかない。
私は犬の人気者になりたいので、近所の犬たちとは積極的に触れ合っている。会うと喜んでくれる犬も多い(と勝手に思っている)。しゃがんで犬と同じ目線に立ち、撫でたり話しかけたりして、犬との交わりを楽しんでいる。ふと、振り返ると、ユクがクールな表情で遠くを見ていた。「犬と遊んで幼稚な飼い主だな。退屈だが、仕方ない、待っていてやるか」という表情である。
ずっこけるしかない。