源氏山公園から、いつもは化粧坂切通を下り、扇ヶ谷に抜けてくる。そして、亀ヶ谷坂を登って北鎌倉のほうへ戻って来る。良く通る散歩コースのうちの一つだ。今日は源氏山公園から化粧坂切通を下らずに、真っ直ぐに進んでみた。ユクが何となくそちらに行きたがったからだ。ユクに引かれるまま公園を抜けて行く。木製の看板があった。鎌倉駅、寿福寺、と書いてあった。なるほど、ここを歩いて行くと鎌倉駅の方面に出るのか。頭の中の拙いマップと照らし合わせ、ふむと納得して看板の指すほうへ向け歩いた。ユクはグイグイ前に行きたがる。一体何があるというのか。
広かった道が少し狭くなり、本格的な山道の入り口に差し掛かったところでユクが足を止めた。本当にここ、このまま下っても良いんですかねぇ、というような顔で私を見つめる。え?ユクがここに連れてきたんじゃないの?と思ったが、ここは飼い主、いや、パックリーダー(一人と一匹だが!)として、毅然たる態度で前進し、今度はユクをリードした。
行くとなれば、またユクも調子良く山道を駆け下りて行く。
少し行くと、今度はお墓が見えてきた。薄暗い山の中でお墓に出くわし、ギョッとしたが、パックリーダーたるもの、怯えている様子など見せられない。足早にその場を通過していく。
しかし、その後勇気あるパックリーダーも流石に歩を止め焦りの顔になった。行き止まりだ。こんな薄暗い山の中、行き止まりだなんて。鎌倉駅、寿福寺こちらとなっていたではないか。どこかで道を間違えたのか。ユクがどうするんですか?という顔でこちらを見ている。焦りの色を引っ込めて、ユクに目で笑いかけた。マスクをしているからだ。
良く前を見てみると、細い割れ目があり、そこから下に降りることが出来そうだった。割れ目の向こうにはお墓が見えている。進んでも戻ってもお墓には変わりない。ならば前進あるのみ!とパックリーダーは決定した。切込隊長のユク坊が先導した。ユクが一匹ぎりぎり通れるくらいの幅の小さな崖だ。こんなことなら、化粧坂切通を下ればよかったよ、と心では思っていたが顔には出さなかった。怖い崖を下り終えたら、今度は古いお墓に囲まれ、別の怖さが背中を涼しくする。また足早にその場を通過する。早く、早く、ここから開放して欲しい。800年間熟成された幽霊などと出遭いたくはない。
と、漸く寿福寺の門が見えるところまでやって来た。
怖かったね~とユクに話しかけながら、寿福寺を後にした。ユクは少しも怖くはなかっただろう。怖かったのは私だ。何かが写ると嫌だったので写真は一枚もない。犬のことを臆病だなどと言えたものではない。