ユクはご年配の方に何故か人気だ。「脚が長くて犬らしい格好だわね」と感心されることや鹿のような斑点模様を美しいと言ってくださることもよくある。また、あるときにはおじいさんが一言、「見事な尻尾じゃのう」と褒めてくださった。恐らくその人気の理由は、昭和の時代によく見かけた、そこら中にいた雑種犬にイメージを重ね合わせているからではないか、と想像される。確かに私が幼少の昭和時代には、雑種の野良犬も身近だったし、誰かの家で飼われていた犬も雑種犬だった。犬といえば、雑種犬だったわけだ。
チワワに一目惚れしてしまうCMが流れ出したときあたりから、部屋の中で飼いやすそうな、改良された小さな犬を飼うことが流行した、と記憶している。今では犬といえば、それらの小さく改良された純血種のほうが主流となった。純血といえば、散歩をしていても、犬種を聞かれることが多い。雑種です、と答えると、ミックスなんですね、と返されることもある。ミックスはなんとなく居心地が悪い。雑種で良いではないか、と思う。妻は勝手に「ミヤコラッセルテリア」という犬種を考え出した。なかなか良くできたネーミングだと思うが、実際に散歩中にそう誰かにお伝えしたことは、まだない。
私は犬種に明るくなく、散歩中、どのような犬に出会ったかということを妻に報告する際に困る。ええと、プードルのようなテリアのようなポメラニアンのような、そんな小さな犬に会った、としか言えないのだ。これではいけないと思うので、犬種について、もっと勉強しようと考えている。
脚の極端に短い犬種があるが、あれは人が改良してきた歴史があるそうだ。牧畜や狩猟を犬に手伝ってもらうのに都合の良いよう脚を短くしたらしい。短足な犬は、歩くのもゆっくりで人の横を歩かせるのも楽だろう。ユクは脚が長い上、歩く速度もなかなか速い。ユクの速度に合わせてやろう、とこちらも調子を合わせていると、結構な速度で並走することになる。なので私は近所の方に、いつも犬と走っている男、と見られていることと思われる。人間の横をゆっくりと歩くように、というしつけも大切なのは理解している。しかし、若くて元気な今のうちに、なるべく気持ちの良い速度で歩かせてやりたい、と思ってしまう。だから一緒に走る。自分もいつまで犬と走ることができるかも分からないではないか。
尻尾についても、人間の手が入ることがある。断尾だ。
小さな犬が短い尻尾を小刻みに振って駆け寄ってくるのはたいへん可愛い。しかし、それが人間の手によって切られていることを知ったのは最近だった。犬を飼うことになり、犬のことを本などで読み、初めて知った。当たり前だが、ユクが尻尾を切られていなくて良かった。
「見事な尻尾じゃのう」と褒めてくださったおじいさんの真似をして、ユクの尻尾をいつも褒めてやっている。
見事な尻尾じゃのう!ユク。