ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

犬は芸なんてできなくても良いではないか。

と、考えていた。その考えはいまも変わらない。それでも、「テッテ」と言うとお手をしてくれるのはうれしい。犬と握手しているような感触があって、何だか仲良くなれたような気がする。「オテ」と言わずに「テッテ」というのは、何となく「オテ」に上からの命令めいたものを感じるからだ。「テッテ」も命令であることには変わりないので、これからは「握手しよ」とでも言おうか。

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ユクは、お座りをすでに覚えてうちにやって来た。お座りをしたら、食べものをもらえる、ということを学習していたのだ。野良犬の生きる術だったのだろう。食卓で私たちがご飯を食べようとしていても、股の間から顔を出してきて、人の心を見事に操る。

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犬が飼い主の命令を聞かないと、人間中心のこの社会では一緒に生きていけないので、しつけ、つまりある程度命令に従うようにしなければならない。動物である犬を尊重して、完全に自由にしてやるということが、事実上は無理なのである。自分たちしか住んでいない島ならそんな自由を犬に与えられるかもしれないが、町で暮らすためにはそうもいかない。だから、ダメと言ったらやめるとか、オイデと言ったら、こちらに来るとか、フセと言ったら伏せる、マテと言ったらしばらく停止するなどのことは最低限しつけなければならない。現代では、それは犬を飼う者の義務だ。

その最低限の項目の中に「オテ」は含まれない。「オテ」ができなくとも、車にぶつかる心配はないし、迷子になることもない。なのでこれは、しつけではなく芸ということになる。しかし、「オテ」をしてくれるのはうれしい。人間は握手が好きな生き物なんだろう。

散歩中に出会う他の犬の飼い主さんが、ユクにおやつをくれることがある。そんなとき、ユクはおやつをもらうために培ったスキルを存分に発揮する。とてもお利口そうな顔でお座りをして待つ。そして、お家で覚えた「オテ」を披露する。やはり、人間は犬との握手を大変喜んでくれるようだ。ユクは今日もおやつを余計にもらっていた。