ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

トム・ヴァーレインが亡くなった。

一九七〇年代の後半にテレヴィジョンという名のバンドを率いていたミュージシャンだ。このところ有名人の訃報続きで、時代の移ろいが身に沁みていた。はっ!と意図せず息が吐き出された。トム・ヴァーレインの訃報に触れたときは、何か他と違うものが感じられた。

一月の終わりにトム・ヴァーレインの死を知ってから、久しぶりに繰り返しテレヴィジョンの曲を聴いている。いま、私はパンデミックでバンド活動を休んでいるが、久しぶりにギターも爪弾いてみた。まさに初期衝動と呼ぶことのできるような気持ちを思い出した。

テレヴィジョンはニューヨークパンクと呼ばれていた。パンクはイギリスの労働者階級から現れたものが有名で、それは少し過激な音楽と歌詞だった。ロックは大体そういうものだが、反体制的な凄みがあった。セックス・ピストルズやクラッシュがその代表格で。


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同じ時期、アメリカのニューヨークでは、テレヴィジョンやパティ・スミス・グループなどが活動を始めていた。同じ時期だったからか「ニューヨークパンク」と呼ばれていたが、イギリスのパンクとは雰囲気が違っていた。どことなく暗く、内向的な感じがするのだ。


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その歌詞も詩的で、暗喩に溢れている。
暴動を煽るイギリスのパンクより、詩的に内面を吐露するニューヨークのパンクに共感した。自分は小さく、力もなく暴動や喧嘩で世の中に刃向かうことなどできそうになかったからだと思う。

犬はいつも私に寄り添ってくれているから、テレヴィジョンを聞かされるはめになっている。それでも大人しくテレヴィジョンを聴いている。いやそうでもないかな。うるさくて迷惑かな。

部屋に「マーキームーン」という曲の歌が流れている。

聴いている
聴いている
その雨音を

聞こえた
聞こえた
何かが聞こえた

訃報に触れて涙は出なかったが、そのフレーズを耳にしたら、目の奥が熱くなり、涙を堪えたら、胸も熱く息苦しくなった。

散歩いこーぜ。

立ち尽くす私の足元で、ユクは、どうしたの?という顔をしていた。
散歩に行くか。