「張り切ってるわね」
前方から歩いてこられた淑女に声をかけられた。
もちろん、ユクの様子をご覧になってのことである。

鎌倉では多く存在する狭い歩道で前から来られる人とすれ違わなければならない。私は犬の速度や歩くコースをコントロールしようと試みる。だが、その日、ユクは完全に北鎌倉へ向いていた。何としてもたどり着かねばならない、という強い意思が全身にあふれていたわけだ。リードを引いて前のめり気味だし、西日を浴びて口が開いている。「ハァハァハァ」と言いながら、ひたすら前へ前へと。その様子を見ての、先の言葉である。

私は北鎌倉に連れて行ってやろうと、すでに心を決めていた。だが、犬はまだそのことに確信がない。どこかでルート変更されるかもしれないし、引き返すことになるかもしれない。そう疑っているのだろう、曲がり角ではルートを変更されないように駆け足になるほど、彼は真剣であった。

ここ数日、暑さのせいか、お散歩に行ってもユクの元気がなかった。何となくトボトボ歩いているように見えた。歳をとったからだろうか、いやいや、まだまだヨタヨタ歩くには早いだろう。色々と一人で考えを巡らせていた。

だが、全ては杞憂であった。
北鎌倉を目指しているユクは、元気そのものだ。もしかしたら、持っている力以上のものを出してしまっているのかもしれないが、トボトボには程遠い力強さである。

北鎌倉に着いてからも、かつての散歩コースの匂いチェックに余念がない。いつもおやつをいただいていたご夫婦にも、運良くお会いすることができた。こうしてまた、成功体験をユクは重ねるのだ。
しかし、やはり帰りは何度も振り向きながら、歩みが重たくなる。
ここからはリーダー交代だ。私が先導して、我が家への帰路につくのである。