ユクは毎日毎日、北鎌倉へ向かおうとする。行くと二時間から三時間はかかる。毎日は付き合ってられないので、最低でも二週間に一度くらいは連れて行ってやることにしている。

散歩中のおやつも、楽しみのうちの一つだ。前方から車が来てそれを避ける際、路肩に寄るように指示する。ユクはそれに従って、脇でお座りをして待つことができる。お利口に待つことができたので、そういう時には少しおやつをあげることにしている。ユクもそれは分かっている。

だから、車が通り過ぎるとお座りしたままこちらの顔を見上げる。すると、何かのたびにこのように顔を見上げるようになるのだ。おやつをもらえるかもしれない、という期待の目である。あまりこれに応じていると犬主導の関係になってしまうので、一旦は歩かせて、少し先でこちらから「止まれ」「待て」の指示を出す。それからおやつをあげるようにしている。

梅雨入りして、小雨がしとしと降るような毎日だ。ユクも少し気が乗らない様子に見える。気が乗らない上に、北鎌倉ではない方面に連れて行かれようとしている。足が重たい。表情も浮かない。

すると、急にUターンをし始めた。
「Uターンしても北鎌倉には行けないよ」と声をかけた。しかしユクは北鎌倉に向かうわけではなく、そのまま家の前にやってきた。つまらない散歩は早々に切り上げたい、ということだったのか。

可哀想なので、翌日、北鎌倉に連れて行ってやることにした。
犬の目付きが変わる。行きたい方向に進んでいるからだ。「北鎌倉に行こうか」と声をかけたものの、犬に言葉が分かるはずもなく、ユクは確認を得ていない。だから何としても北鎌倉に舵を取っていきたい、という強い意思が現れている。
前に住んでいた家までは、およそ四十分程度かかる。そこから以前によく歩いていた散歩コースを歩くので、普通の散歩に八十分追加した形になる。だから二時間半を要するのだ。

散歩に出てから一時間ほど経つが、ユクは用を足していない。北鎌倉に行くことだけに集中して、忘れているのだろうか。北鎌倉に着いてから、ようやく用を足した。旧知の犬や人たちに会い、いつもより入念に匂いを嗅ぎ、自分の縄張りをパトロールする。

十分に満足してくれたかと思いきや、北鎌倉を後にしようとすると、途端に足が重くなる。そして何度も振り返る。北鎌倉に連れてきてやっても、結局、申し訳ない気持ちを抱えながら帰路につくことになる。