小学校に上がる前くらいの男の子が、何者かと戦っている。もちろん、その相手は私には見えない。だが、確かに男の子は何者かと戦っている。男の子の手には、武器もない。素手で戦っているのか、何かを持って戦っているのか、それも分からない。

自分もこの子のような子供時代があったので、気持ちは分からなくもない。テレビや漫画で見たスーパーヒーローの真似事をしているのだろう。大人になってからは、人前でこのような行動をしなくなる。恥ずかしさというものを持つからだ。かつて格好良いと思えたものが、なぜ人目を気にして「恥ずかしい」と思うように至るのか。過剰に他人の目を気にしすぎているのであろうか。

私には、この他にもできなくなったことがいくつかある。そのうちの一つに、自転車の手放し運転がある。ただこれは、大人でもやっている場面を見かけることがある。実際に、曲がっていた背中を伸ばす意味合いもあるのかもしれないが、どうしても「手放し運転ができている格好いい俺」をアピールしているように見えてならない。私の目がうがっているのかもしれないが、運転者の顔つきも自慢気に見える。両手で扱えば良いものを、わざわざ片手でやろうとする人を見かけても、同様の心持ちになる。

大人というものは、つまらないものだ。こういうことではいけないな。

ユクもいつだって、自慢げな顔をする。くるくる回って、ピタッと止まって、「どうだ!」と言わんばかりである。お魚のぬいぐるみを咥えて放り投げ、もう一度捕らえて、咥えあげる。それは、子供がスーパーヒーローになっているのと同じだ。とても微笑ましい気持ちになる。――いや、「微笑ましい」などと言っている時点で、私もつまらない大人だ。格好いいと思うような生き方をしたいものだ。