ユクとゆく

宮古島で保護された犬、ユクとの暮らし。

スケルトン階段。いつかまた抱っこして。

実際に引っ越してくる前から、犬に早く慣れさせようとして、何度か引っ越し先の家に連れてきたことがある。犬は少し戸惑っているようにも見えたが、家の中ではわりと堂々としていた。環境を変えるにあたって、人間のほうが過度に心配をしていたのかもしれない。

まあまあ歩きやすいじゃん。

ユクは大変に受け入れ能力の高い犬である。水に濡れることは大嫌いなのだが、シャンプーをすることになれば、それを受け入れる。それ以上暴れたり、逃げたりはしない。足をガクガク震わせながら、シャワーを浴びることを受け入れる。シャンプーもドライヤーもすべてやってもらえるのだから、うらやましい限りではあるが、犬にとっては大変迷惑なようである。

ちょっとよそ行きの顔。

そんなユクが、階段を三段か四段のぼったところで、焦りの表情で登るのをやめてしまった。Uターンするのも難しそうで、少し踏み外して慌てた様子だった。

新しい家はスケルトン階段である。
少し段を上がったところで、向こう側が見えてしまう。つまり、自分が高いところにいるということを、目の前に突きつけられるのだ。その瞬間、その高さに驚いてしまったものと思われる。

恐怖のスケルトン。

二階に上がることなく一階で生活が完結すれば、別にスケルトン階段を登れなくても大丈夫だ。しかしこの家は、二階がリビングである。人間と犬がゆっくりするのも二階なのだ。仕方がないので抱っこして二階に連れて行った。抱っこで階段を上るのは平気なようである。そして降りるときは一人で降りられる。やはり上りのときに向こう側が見えてしまうのが怖いのだろう。

はよ散歩行こうぜ。

引っ越す前から、このスケルトン階段問題が私の心を悩ませていた。引っ越してからもやはり同じで、上りは抱っこ、下りは自分で降りる、という生活が始まった。
ユクは十キロくらいある。朝起き抜けの私の膝には、少し準備運動がないとプラス十キロの負荷はつらい。これから何年もプラス十キロでこの階段を登らなければいけないのかと思うと、憂鬱になった。だが、犬のためだ。何とかせねばならない。スクワット運動でも強化するか。そのような気持ちであった。

こわいものはこわいんだ。

また、新しい環境でユクのほうも、どのように振る舞って良いのか調子がつかめていないらしい。私が二階から一階に降りると、いちいちついてくる。本当はついてきてほしくない。すぐに二階へ戻るのだから。

だから、二階へ戻るとき、一階に降りてきたユクをまた抱き上げて、二階へ戻らねばならない。すぐに帰ってくる、そんなことは犬にはわからない。

甘えるユク坊。

一週間ほど経った。
ある日、散歩から帰ってきて、「さあ、二階に上がろうか」とした。そのときユクが先導する形で階段を登り始めた。また途中でやめるのではないかと観察していたが、なんとそのままスタスタと二階まで登り切ったのだ。

スケルトン階段をユクが登りきった!

私は大げさに褒めそやした。
ユクはちょっと得意げな顔になっていた。
本当に受け入れ能力の高い犬である。適応力と言おうか。
ひとまずこれで、抱っこして階段、という生活は免れた。

褒められて悪い気はしない。

だがいずれ、ユクが老いて、うまく階段を登り降りできなくなるときが来るだろう。そう、そのときまで、私は膝を大切にしなくてはならない。

犬の時間は人間よりも早く進む。
こちらが同じだけ歳を取るころには、ユクはもっと先へ行ってしまう。

だからこそ、膝を大切に。