私は網膜剥離というものになったことがある。目の前に、黒い紙片のようなものが現れた。最初は、ゴミでも入ったのだろうかと思った。あるいは、コンタクトレンズに傷が入ったのだろうかとも考えた。コンタクトレンズを外してみても、その黒い紙切れは消えなかった。

翌日、近所の眼科に行った。すぐに網膜剥離であると診断され、紹介状を手に大学病院へ出向いた。すぐに入院と手術の日が決定した。手術は大学病院で行われた。突然、眼球の近くに麻酔を打たれ、ウルトラQのオープニングのように、ぐるぐると目の前が渦巻いた。そして真っ暗になった。それが普通のことなのか、異常なことなのか、そういうことすらわからない。
「あぁ、いま世の中が停電したら私はどうなるのだろう」
「戦争が始まって、この大学病院に爆弾が落ちてきたら、私はどうなるのだろう」
そのようなことばかりを考えて過ごしていた。何か、普段は聞かないような、軽い感じのBGMが流れていた。

手術は無事成功した。体感は一時間ほどだったが、実際には二時間半くらい経っていた。紹介してくださった先生も、実際に手術を行ってくださった先生にも、大変感謝している。良いご縁だった。こういう時の「縁」というものは、とても不思議なものだと思う。

このような手術をすると、後遺症というほどではないが、少しゴミのようなものが目の前に浮遊するようになった。何か虫でも飛んできたような気配を感じることはいまでもある。ただ、その程度のものだ。歳を重ねれば、誰でも飛蚊症のような症状は持つものだろう。白い壁や澄み渡った空をじっと見ていると、モヤモヤといろんなものが浮かんでいるはずだ。

ユクが壁をじっと見つめる。まさか飛蚊症ではないと思われる。ユクの見ている方を、こちらも見てみる。ただの白い壁だ。一体この犬は何を見ているのだろうか。空気を読むのがうまい犬であるが、気配を感じることにも長けているのかもしれない。だが、一体何の気配だというのだろうか。
お化け、幽霊、霊魂。

ぞっとするので、やめてほしいものだ。私は子どもの頃から幽霊やお化けが大嫌いだ。ただ一度も、そういうものに出くわしたことがない。きっと、見たことがないから怖いのだと思う。見てみれば、このようなものか、と認識できる程度のものなのかもしれないが……。