最初の一年は、マーキングなどしなかった。
犬の話である。

なぜ二年目からするようになったのか。自我の目覚めなのか、オスだからだろうか。メスでも匂い嗅ぎが大好きな犬はいる。縄張り意識ばかりではなく、匂いを嗅いで回ること自体を楽しんでいるようにも見える。行為自体はオスに限らないが、電柱に向かって片足を上げている姿は、いかにも犬らしい。

即座に飼い主は水をかける。なるべく水で薄めて、匂いが残らないようにするためだ。それでも犬の嗅覚能力は人間の何百万倍も(もっと?)優れている。水をかけたところで、きっと犬たちは嗅ぎ取っているのだろう。水をかける行為はマナーではあるが、実際にそれがどこまで機能しているのかは、正直あやしい。

人様の家の前でマーキングをしてしまうことは、なるべく避けたい。だから、できるだけ山に連れて行き、山でマーキングをさせる。山でなら、大した迷惑にはならないだろう。そもそも野生の動物たちが、方々でマーキングをしているはずだから。

犬の粗相を戒める看板が、家の前に立てられていることがある。きっと過去に、放置されたりして迷惑を被ったのだろう。ユクはなぜか、その看板の前でマーキングをしたがる。犬たちがこぞってマーキングをする場所だから、そこに看板が立っているのだと思う。良いところに立っている看板である。

過日、地下鉄に乗っていたところ、ベンツのディーラーの広告が掲出されていた。私は可笑しさで曲がる口元をもごもごさせ、こらえた。このような薄暗い地下鉄に乗っている人たちが、果たしてベンツを買いに行くのだろうか。少なくとも私は、まったく興味がない。周囲を見渡しても、ベンツに関心がありそうな人物は見当たらなかった。
せめて道路脇などに広告を出し、車のグレードアップを促すほうが効果的なのではないか。

これでは、地下鉄の吊り広告に「犬のおしっこ禁止」という看板を出すのと、あまり変わらない。