ユクの犬種は「フォルモサンマウンテンドッグ」という名称だ。遺伝子検査の結果、ユクはフォルモサンマウンテンドッグが 100 パーセントであることが分かった。お父さんもお母さんも、純然たるフォルモサンマウンテンドッグなのだ。
すれ違いざま、おじさんが呟いた。
「ジャックラッセル」
いや、違うんだよ、と心の中で思いながら、えへへと立ち去る。こういう場合に「いえいえ、フォルモサンマウンテンドッグです」と申し上げたことは一度もない。勝手に考えた「ミヤコラッセルテリアです」とも申し上げたことはもちろんない。

犬種を尋ねるというのは、犬を飼っている者同士ではよくあることだ。明らかにトイプードルであったり、チワワであったりすれば、問う必要もない。しかし案外、チワワかと思えば「チワックスです」と言われたりする。チワワとダックスフントの掛け合わせられた犬種だと思う。
「フレブル」や「トイプー」といった省略した呼び方もある。ではフォルモサンマウンテンドッグは略して何と呼べば良いのだろう。「フォルモサン」ではどこかの山のようだ。「フォルドッグ」だとまるで別の犬種である。「フォルモ」だと何かの形のようだし、「フォルモサ」ではフェデロサのような響きになる。「モッサン」だとまるで小学生のあだ名だ。

いや、私はそもそも省略語があまり好きではない。「ファミコン」や「パソコン」は致し方ないとして、「トムジェリ」はどうだろう。「と」と「ー」まで省略しなくてはならないだろうか。私の好きなアニメでもあるので、なるべく「トムとジェリー」と呼んであげてほしい。
子供たちが「わんわん」と言うのも、どうにも気になる。「いぬ」で良いではないか。そもそも「わんわん」は鳴き声の擬音であって、名前ではない。そして「ワンちゃん」は世界のホームラン王のことだ。

ひとつ思い出した。
小学生のころ、友達が飼っていた犬の名は「ジョン」だった。しかし友人いわく、本名は「ジョンクーガーメレンキャンプ」だ、と随分経ってから聞かされた。略してジョンと呼んでいるとのことだった。

